2008-01-01から1年間の記事一覧
昨日はかなり辛口の感想になってしまったけれど、いくつかセールスポイントもないわけではない。 何より共感を覚えるのは、「主人公が運転手として富裕層に接することで感じた願望、羨望、欲望の数々」。インドの社会が実際はどんなものなのか、ぼくには見当…
Aravind Adiga の "The White Tiger" を読了。ご存じ今年のブッカー賞受賞作だが、たしかに面白いことは面白いけれど、はて、この程度で受賞かと、いささか拍子抜けしてしまった。The White Tiger: A Novel (Man Booker Prize)作者: Aravind Adiga出版社/メ…
友よ、もし君が(川の)こちら側に住んでいたとしたら、僕は人殺しになるだろうし、君をこんなふうに殺すのは正しくないだろう。だが、君は向こう側に住んでいる以上、僕は勇士であり、これが正しいことなのだ。 パスカルの『パンセ』の一節である。川ひとつ…
この秋最大の話題作と言ってもいい Aravind Adiga の "The White Tiger" を読みだしたところだが、なかなか快調。今のところ、インドの貧しい家に生まれ育った主人公が(たぶん)成り上がる過程を描いたもので、召使い同士の駆け引きなどリアルで面白い。が…
ベルジャーエフによれば、プルーストは「人間の意識における道徳的葛藤などまったく眼中になかった」そうだが、ひょっとしたら、これがその昔、『失われた時を求めて』を邦訳で読みはじめて挫折した原因かもしれない…などとエラそうなことは言うまい。何しろ…
何日も前に William Maxwell の "The Chateau" を読了していたのだが、"Moby-Dick" と「闇の力」について考えるほうが面白く、今日までなかなかレビューが書けなかった。 The Chateau作者: William Maxwell出版社/メーカー: Vintage Classics発売日: 2000/12…
結局、エイハブは偉大な英雄だったのか、それとも、極悪非道の悪人だったのか。「理性の狂気」という「闇の力」に突き動かされ、絶対的な正義を追求した結果、現実の世界に置き換えれば虐殺をもたらしたという意味では後者である。だが、海の藻屑と消えさる…
まあ簡単に言ってしまえば、人間を強く惹きつけ、自己制御が不可能にまでに狂わせる真善美の力、もしくは逆に、真善美を手にいれようとする理性では抑えきれない衝動が「闇の力」なのだと、ぼくは漠然と考えている。ニーチェなら、真善美ではなく「力」と言…
いやはや、とんでもない脱線をしてしまったものだ。2週間前に観た『愛の嵐』の感想で、「男と女が結びつくとき、そこには理性では計り知れない闇の力が働くことがある」と書いたのがきっかけで、すっかり「闇の力」のとりこになってしまった。 あの映画には…
人が自分の理想を追求すればするほど他人の存在を忘れ、その理想しか見えなくなり、あげくの果てに自分も他人も破滅に導いてしまう。ぼくは昨日、ミルトン・スターンが指摘した「公式」をこのように要約したが、この「理想主義的ヴィジョン」から「自己の抹…
「神たらんとした」エイハブが悪魔的な人物と化した理由について考えるには、ミルトン・スターンの指摘が参考になる。スターンによれば、メルヴィルの作品の主要な人物はいずれも「絶対の追求者」であり、その行動にはこんな「一定の公式」が認められるとい…
だが一方、「アダム以降の全人類の怒りと憎しみの総計」を白鯨にぶつけたエイハブが「偏執狂のとりこ」となり、「凶暴な狂人ぶりを発揮し」たこともまた事実である。これは、彼が同時に偉大な人間であったことと矛盾しない。白鯨を「根元的な悪の存在」と見…
エイハブはとにかく偉大な人間だった。その偉大さは、カリスマ性は、直接的にはもちろん、白鯨と対決することから生まれたものである。人間の力をはるかに上回る相手と戦うことにより、人間そのものの水準が引き上げられたのだ。この点、映画『白鯨』のグレ…
エイハブはたしかに「狂的なまでに自分の理想を追求し」、あげくの果てに、乗組員ともども海の藻屑となってしまう。だが、その「破滅」は決して文字どおりの破滅ではない。なぜなら、メルヴィルはエイハブを単なる狂人としては描かなかったからだ。彼に惨め…
ぼくはメルヴィルについて考えるのは本当に久しぶりだし、またこの8年ばかり、日本の小説および翻訳にはほとんど接したことがないので、『白鯨』の新訳が出ていることも知らなかった。今日届いた岩波文庫版をぱらぱらめくってみると、たしかにネットの評判…
メルヴィルの英語は非常に難解で、その昔、"Moby Dick" も脳ミソをこってり絞りながら読んだ憶えがある。で、昨日引用した箇所にたどりついたときはガクっとしたものだ。今まで白鯨の白さについて、ああだこうだと書いておきながら、その「謎はまだ解かれて…
William Maxwell の "The Chateau" は少し面白くなってきたところだが、読了までまだしばらく時間がかかるので、今日は昨日の続きで、メルヴィルを手がかりに「闇の力」について考えてみたい。 といっても、大風呂敷を広げないよう、話を "Moby-Dick" に絞る…
風邪だと思うが、頭痛がとれず絶不調。おまけに通勤電車の中でしか読むひまがないので遅々として進まないが、"The Chateau" がどんな小説なのか少し見えてきた。 第2次大戦が終わって3年後、アメリカ人の若い夫婦が(今のところ)フランスを旅する話で、風…
William Maxwell のことは、じつはあまりよく知らない。読みだしたばかりの "The Chateau" の裏表紙にある紹介記事にも目を通していない。何年か前、"They Came Like Swallows"(37) という短い小説を読んだことがあるだけだ。They Came Like Swallows (Vinta…
"An Irish Country Doctor" がベストセラーになったおかげだろう、その続編と思われる "An Irish Country Christmas" が28日に発売されるという。表紙を見る限り、これまた楽しそうな本だが、貧乏金なしのぼくは当然、ペイパーバックを待つつもり。An Irish …
読了したのは昨日なのに、まだ余韻が残っている。「ニューヨーク・タイムズのベストセラー」という看板どおりの秀作である。An Irish Country Doctor (Irish Country Books)作者: Patrick Taylor出版社/メーカー: Forge Books発売日: 2008/01/22メディア: ペ…
やっと出張先から帰ってきた。この2日間、携帯を使って書いた日記を訂正したところだが、訂正前の画面を見たときは愕然。携帯の利用の仕方がよく分かっていなかったせいで、すごいことになっていた。 帰りの電車の中で "An Irish Country Doctor" を読了。…
出張2日目。だいぶキーの操作に馴れてきたが、やはり面倒くさい。ケータイ小説なるものの存在が信じられない。 ふだんのボケに加えて旅先なので読むスピードはのろいが、"An Irish Country Doctor" の輪郭がかなり見えてきた。「この秋最高の読書体験」かど…
今日は久しぶりに出張。携帯でこれを書いているのだが、キーの操作がまことに煩わしい。改行など、あとで訂正しなければ。 さて、Patrick Taylor の "An Irish Country Doctor" はその後も快調で、ますます気に入っている。「赤ひげ」のローカルピース版とい…
この1ヵ月ほど風邪をひき戻してばかりいて絶不調。血圧、胃痛…いったい何種類、クスリを飲んでいることやらとボヤきつつ、Patrick Taylor の "An Irish Country Doctor" に取りかかった。 どんな作家かは知らない。作者の前書きも裏表紙の紹介記事も未読。…
今月7日に出たばかりの Ron Rash の新刊 "Serena" は、米アマゾンではなかなか好評らしい。しかも同書のページには、作者のエッセーと顔写真まで載っている。"The World Made Straight" でアレックス賞を受賞した Rash は、メインストリームの作家としての…
"The World Made Straight" における歴史問題とは、一昨日のレビューにも書いたように、南北戦争の際に北軍が行なった虐殺のことだ。「あとがき」によれば、本書に出てくる The Shelton Laurel Massacre は実際にあった事件なのだそうだが、今さらぼくなどが…
Ron Rash の "The World Made Straight" はいわゆるウェル・メイドな小説でけっこう面白かったのだけれど、不満も若干なくはない。 ひとつには、どうしても処女作の "One Foot in Eden" と較べてしまうからで、あちらの「クライマックスへとなだれこむ過程」…
昨夜、Ron Rash の "The World Made Straight" を読了。処女作 "One Foot in Eden" のレビューでぼくは、「近作は未読だが、さらに陰影に富んだ人物像の提示があることを期待したい」と書いたが、http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071031/p1 その期待は充…
昨日、National Book Awards 全米図書賞のショートリストが発表された。http://www.nationalbook.org/nba2008.html "The Lazarus Project" Aleksandar Hemon, "Telex from Cuba" Rachel Kushner, "Shadow Country" Peter Matthiessen, "Home" Marilynne Robi…