ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2009-01-01から1年間の記事一覧

"Last Night in Twisted River" 雑感(2)

いつもの「遅読症」のため、まだ第4部の途中までしか読んでいないが、全体の印象は前回と同じで「まずまず面白い」。言い換えれば、「期待したほどではない」。 ただし、第3部にはケッサクなシークェンスがある。全裸のブロンド女が軽飛行機からパラシュー…

"Last Night in Twisted River" 雑感(1)

つい最近 John Irving の新作が出たことを知り急遽入手、予定を変更して取りかかった。こんな調子だから、いつまでたっても積ん読の山が残っている。 アーヴィングの本を読むのは "The Fourth Hand" 以来で6冊目。まだ9冊も読み残しているので熱心なファン…

J.M. Coetzee の "Summertime"(2)

今年のブッカー賞発表直前のオッズによると本書は3番人気だったようだが、受賞した Hilary Mantel の "Wolf Hall" と較べるとたしかに分が悪い。過去栄冠に輝いたクッツェーの旧作、"Life and Times of Michael K" や "Disgrace" と較べても落ちるのではな…

J.M. Coetzee の "Summertime"(1)

今年のブッカー賞最終候補作の一つ、J.M. Coetzee の "Summertime" をやっと読みおえた。おとといの雑感と似たり寄ったりになりそうだが、さっそくレビューを書いておこう。Summertime作者:Coetzee, J.M.発売日: 2009/09/14メディア: ハードカバー[☆☆☆★] 作…

"Summertime" 雑感

先週の土曜にやっと出張が終わり、昨日は出張先からケータイで書いた3日分の字句訂正。あとは疲れて終日ボンヤリしていた。 出張中に今年のブッカー賞最終候補作の一つ、J.M. Coetzee の "Summertime" に取りかかったが、途切れ途切れに読んでいるせいか、…

Hilary Mantel の “Wolf Hall”(4)

「したたかな現実主義者クロムウェルと『信念の人』トマス・モアの…どちらが見事な生き方かという価値判断は示されていない」とレビューには書いたが、クロムウェルが主人公のせいか、じつはモアのほうは少々厳しめに描かれている。宗教上の異端者に対し、大…

Hilary Mantel の “Wolf Hall”(3)

ヘンリー8世に重用されたトマス・クロムウェルのもとには、宮廷内外から陳情や嘆願が殺到する。クロムウェルは駆け引き上手で観察力に長け、冷静沈着そのもの。時には金にものを言わせてトラブルを解決、その政治手腕は師匠トマス・ウールジのはるか上を行…

Hilary Mantel の "Wolf Hall"(2)

雑感(1)にも書いたように、「著名な人物を主人公にすえた歴史小説の場合、マクロな視点とミクロな視点を巧妙に配しながら、その人物に関する最も本質的な問題をすぐれたフィクションの形で追求する、というのがぼくのゴヒイキ」。この点、本書はどこを取っ…

Hilary Mantel の “Wolf Hall”(1)

今年のブッカー賞受賞作、Hilary Mantel の "Wolf Hall" をやっと読みおえた。今まで3回の雑感に毛が生えたものになりそうだが、いつものようにレビューを書いておこう。Wolf Hall (The Wolf Hall Trilogy)作者:Mantel, HilaryFourth Estate LtdAmazon[☆☆☆☆…

“Wolf Hall” 雑感(3)

中盤にさしかかったところで、やっと面白くなってきた! きっかけは、アン・ブリーンと結婚していたという貴族が登場、その主張を撤回させようと主人公のクロムウェルが圧力をかけるエピソード。ふむふむ、なあるほどね。本書が今年のブッカー賞に選ばれた理…

“Wolf Hall” 雑感(2)

職場が「農繁期」に入り、思うようには進まないが、これを書いたあと寝るまでに何とか第3部を読みおえられそうだ。全体の印象は前回とあまり変わらない。歴史小説が大好きな、あるいはこの時代に関心のある読者ならいざ知らず、門外漢のぼくには今のところ…

“Wolf Hall” 雑感(1)

昨日も書いたように、今年のブッカー賞受賞作、Hilary Mantel の "Wolf Hall" に取りかかった。まだ第2部までしか読んでいないので文字どおり雑感になるが、「面白度」は率直に言って、まずまず。今のところ、クイクイ読めるほどではない。 たまたま先月、0…

Karen White の "The House on Tradd Street"(2)

血液検査の結果はさいわい異常なし。ホッとしたところで、先週寝こんでいるあいだに届いた今年のブッカー賞受賞作、Hilary Mantel の "Wolf Hall" に取りかかった。さっそく最初の雑感を書いてもいいのだが、今日は昨日の補足をしておきたい。 といっても本…

Karen White の "The House on Tradd Street"(1)

新型インフルではないと思うが先週は高熱が続き、仕事も読書もすべて中断、ずっと寝こんでいた。昨日の午後になってやっと平熱近くになり、ベッドの中で本書に改めて取りかかり、夜半に読了。それがたたったせいか、これを書いている今もまだ熱っぽい。明日…

"The House on Tradd Street" 雑感(2)

これは相変わらず、というよりますます楽しい本だ。08年刊行で、ひょっとしたらもう日本に紹介されているのかもしれないが、不勉強のぼくには掘り出し物。風邪がまだ抜けきらないせいか頭が重く、思うように先へ進まないのがとても残念だ。 「モダンなラブコ…

"The House on Tradd Street" 雑感(1)

A. N. Wilson の "Winnie and Wolf" がえらくシンドイ小説だったので、口直しに Karen White の "The House on Tradd Street" に取りかかった。知らない作家の知らない作品だが、たぶん米アマゾンのリストマニアか何かで出くわし、古い屋敷が描かれた魅力的…

A. N. Wilson の "Winnie and Wolf"(2)

本書の感想は一連の雑感と昨日のレビューで書きつくしたが、これを読んでいるうちに思い出したことがある。先月、Travis Holland の "The Archivist's Story" をだしにして純文学と大衆小説の違いというナンセンスな問題に取り組んだとき、ぼくは「心理重視…

A. N. Wilson の "Winnie and Wolf" (1)

07年のブッカー賞候補作で、ガーディアン紙の年間優秀作品にも選ばれた A. N. Wilson の "Winnie and Wolf" をやっと読みおえた。今までの雑感のまとめに過ぎないが、いつものようにレビューを書いておこう。なお、昨日の訂正をひとつ。最終章は「パルジファ…

"Winnie and Wolf" 雑感(6)

「パルジファル」が最終章かと思ったら、あとひとつ、「トリスタンとイゾルデ」の章が残っていた。余談だが、遅ればせながら、それぞれクナッパーツブッシュとフルトヴェングラーの名盤を注文。「指環」はとても無理だが、時間的にこのふたつの楽劇なら聴け…

"Winnie and Wolf" 雑感(5)

昨日からまだいくらも読み進んでいないが続きを補足。「ヒトラーの人物像…についてもかなり常識的な解釈だ」と書いたが、これは本書のフィクション部分にも当てはまる。ジークフリートに雇われた秘書の目を通してワーグナー一家とヒトラーの交流が描かれ、ヒ…

"Winnie and Wolf" 雑感(4)

今週も風邪で絶不調。医者に処方してもらった薬を服みだしたのだが、効き目が切れたとたん頭が痛くなる。おかげで本を読むペースも相変わらずカタツムリ君だ。が、ピッチが上がらないのは体調のせいばかりではなく、正直言ってこの "Winnie and Wolf"、ぼく…

"Winnie and Wolf" 雑感(3)

相変わらず風邪で絶不調。大連休で困ったのは医者の休診で、売薬は眠くなるだけであまり効果がなく、もう一週間もボーっとしている。おかげで本書はまだ半分しか読んでいない。まるでカタツムリ君だ。 ここに来てやっと気がついたのだが、前半はどうやら歴史…

"Winnie and Wolf" 雑感(2)

せっかくの大連休なのに風邪を引いてしまい、ボケ×3状態。クスリのせいか活字を読んでいるとすぐ眠くなる。おかげでこの "Winnie and Wolf" も途中で放りだしていたが、今日になって改めて読みだした。 体調のせいもあるのだろうが、これは相変わらずシンド…

"Winnie and Wolf" 雑感(1)

こんどのシルバーウィークにゆっくり骨休めできるようにと、今週は家でも仕事に励んでいる。そこで通勤電車の中で2007年のブッカー賞候補作、A. N. Wilson の "Winnie and Wolf" にボチボチ取りかかった。これは今のところ、ちとシンドイ小説だ。なにしろ、…

Travis Holland の "The Archivist's Story"(3)

本書を読んで『悪霊』や『1984年』のような過去の名作を思い出すのは自然の成り行きだが、あとひとつ考えたのは、先週も採りあげた純文学と大衆小説の違いという問題である。あのときは Louise Douglas の "The Love of My Life" をきっかけに、恋愛小説、そ…

Travis Holland の "The Archivist's Story"(2)

幕切れが少し気になったので Travis Holland のことをネットで調べてみたら、この作家はもともと短編を書いていた人で、本書はどうやら処女長編ということらしい。それで納得。ネタを明かすわけには行かないが、これはまさに短編小説の終わり方である。 途中…

Travis Holland の "The Archivist's Story"(1)

今年の国際IMPACダブリン文学賞の最終候補作、Travis Holland の "The Archivist's Story" をやっと読みおえた。例によってまずレビューを書いておこう。The Archivist's Story: A Novel作者: Travis Holland出版社/メーカー: Dial Press Trade Paperback発…

"The Archivist's Story" 雑感(2)

おとといの続きになるが、"Love and Summer" も "Not Untrue and Not Unkind" もメロドラマとして相当にがんばっていると思う。前者は「清純な不倫」を描きながら「周囲の人物もふくめた心の葛藤劇となっている点がすばらしい」し、後者は「即物的とも言える…

"The Archivist's Story" 雑感(1)

積ん読の山をまた少しでも切り崩そうと、Travis Holland の "The Archivist's Story" に取りかかった。かなり前、あちらのリストマニアか何かで見かけて買った本だが、今年になって国際IMPACダブリン文学賞の候補作に選ばれ、ああやっぱり読まなくちゃと思っ…

Louise Douglas の "The Love of My Life"(2)

ぼくはおとといの雑感でこう書いた。「少なくとも現代文学において、大衆小説と純文学の違いは何なのか。今やナンセンスな問題かもしれないが、この "The Love of My Life" を読みながらボチボチ考えてみたい」。 が、じつはこの問題については、すでに7月1…