ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

Colm Toibin の “The Blackwater Lightship” (1)

1999年のブッカー賞最終候補作、Colm Toibin の "The Blackwater Lightship" を読了。さっそくレビューを書いておこう。The Blackwater Lightship: A Novel作者:Toibin, ColmScribnerAmazon[☆☆☆☆] なにもかも、決まりすぎるほど決まっている。しかし泣けた。…

Nancy Richler の “The Imposter Bride” (2)

諸般の事情で一日遅れになってしまったが、本書の落ち穂拾いをしておこう。 まず、これはしばらく読めば、その後の粗筋と結末がどうなるか、だいたい予想がつくのではないだろうか。ひょっとしたら、おとといのレビューだけでピンとくるかもしれない。そうい…

Nancy Richler の “The Imposter Bride” (1)

昨年のギラー賞最終候補作、Nancy Richler の "The Imposter Bride" を読了。惜しくも受賞は逃したものの、海外のファン投票では第1位に選ばれた作品である。ぼくが読んだのは、カナダの Harper Collins 社から出ているペイパーバック版だが、日本では現在…

“The Imposter Bride” 雑感

昨年のギラー賞最終候補作、Nancy Richler の "The Imposter Bride" を読んでいる。いまネットを検索すると、日本ではまだハードカバーしか出ていないようだが、ぼくはわざわざカナダからペイパーバック版を取り寄せた。送料込みで99円高くついたが、ぼくは…

2013年ピューリッツァー賞「候補作」(2013 Pulitzer Prize “Finalists”)

まず、"A Hologram for the King" の落ち穂拾いから。きのうはネクラな話になってしまったので、きょうは同書に出てくる爆笑物のジョークを紹介しておこう。ぜんぶで6つあるうち、知り合いのアメリカ人とオーストラリア人にお気に入りを選んでもらったとこ…

Dave Eggers の “A Hologram for the King” (2)

まずテキストの補足をしておくと、ぼくが読んだのは Penguin Books。ところが、どういうわけかカバー写真を掲載することができない。しかたなく、きのうはハードカバーで代用することにした。いつか可能になったらペンギン版に差し替えようと思っている。本…

Dave Eggers の “A Hologram for the King” (1)

Dave Eggers の "A Hologram for the King" を読了。昨年の全米図書賞最終候補作で、ニューヨーク・タイムズ紙や、パブリシャーズ・ウィークリー誌、アメリカおよびカナダのアマゾンの年間ベスト、Michiko Kakutani の Favorite Books にも選ばれている。さ…

“A Hologram for the King” 雑感

Dave Eggers の "A Hologram for the King" を読んでいる。昨年の全米図書賞最終候補作で、ニューヨーク・タイムズ紙や、パブリシャーズ・ウィークリー誌、アメリカおよびカナダのアマゾンなどの年間ベスト、Michiko Kakutani の Favorite Books にも選ばれ…

Tupelo Hassman の “Girlchild” (2)

いつだったかも書いたことだが、あちらの小説は、おおむね次の3タイプに分かれるような気がする。(1) ストーリー重視型 (2) 表現重視型 (3) テーマ追求型 さらにといえば、(4) キャラクター重視型 もふくめた4タイプだろうか。 で、これまた以…

Tupelo Hassman の “Girlchild” (1)

今年のアレックス賞受賞作のひとつ、Tupelo Hassman の "Girlchild" を読了。さっそくレビューを書いておこう。Girlchild作者:Hassman, TupeloPicador USAAmazon[☆☆☆★] 親子の絆、家族愛、そして通過儀礼をテーマにすえた文学的なコラージュ。ネヴァダ州の田…

“Girlchild” 雑感

今年のアレックス賞受賞作のひとつ、Tupelo Hassman の "Girlchild" を読んでいる。ほんとうはこの土日で読みおえたかったのだが、アルコールその他、諸般の事情で挫折してしまった。 アレックス賞といえば、本書の前に取り組んだ Robin Sloan の "Mr. Penum…

Robin Sloan の “Mr. Penumbra's 24-Hour Bookstore” (2)

これは、残念! のひとことに尽きる。雑感で紹介したような滑りだしで、ほんとうにゾクゾクするほど「序盤は最高」だったのに、謎の真相が見えたあたりでガッカリ。最後は軽く読み流してしまった。 もちろん、中には大いに満足できる人もいるかもしれない。…

Robin Sloan の “Mr. Penumbra's 24-Hour Bookstore” (1)

今年のアレックス賞受賞作のひとつ、Robin Sloan の "Mr. Penumbra's 24-Hour Bookstore" を読了。さっそくレビューを書いておこう。Mr. Penumbra's 24-Hour Bookstore作者:Sloan, RobinFarrar Straus & GirouxAmazon[☆☆☆★] 序盤は最高。サンフランシスコに…

“Mr. Penumbra's 24-Hour Bookstore” 雑感

今年のアレックス賞受賞作のひとつ、Robin Sloan の "Mr. Penumbra's 24-Hour Bookstore" をボチボチ読んでいる。 アレックス賞といえば、ぼくは例年、発表時点でペイパーバック版が出ているものしか読まないことが多い。仮におもしろそうだなと思ったハード…

Lauren Groff の “Arcadia” (2)

点数は辛めにつけたが、これを Janet Maslin 女史が去年のお気に入りの一冊に選んだ理由はわからなくもない。女史にかぎらず、こういう詩的で情感のこもった作品に強い愛着を覚える人もたくさんいることだろう。 じつはぼくも、とりわけ後半、ふっと溜息をつ…

Lauren Groff の “Arcadia” (1)

Lauren Groff の "Arcadia" を読了。ニューヨーク・タイムズ紙の書評家、Janet Maslin が選んだ去年の 10 Favorite Books の一冊である。さっそくレビューを書いておこう。Arcadia作者:Groff, LaurenVoiceAmazon[☆☆☆★★] アルカディア――牧歌的な理想郷。本書…

“Arcadia” 雑感

Lauren Groff の "Arcadia" をボチボチ読んでいる。ニューヨーク・タイムズ紙の書評家 Janet Maslin が選んだ去年の 10 Favorite Books の一冊である。Michiko Kakutani が選んだ Ayana Mathis の "The Twelve Tribes of Hattie" がとてもよかったので、Masl…

Francesca Segal の “The Innocents” (2)

周知のとおり、2012年のコスタ賞最優秀作品賞は Hilary Mantel の "Bring up the Bodies" に決定し、ブッカー賞とあわせてダブル受賞となった。たしかに快挙ではあるが、ヘソ曲がりのぼくなど、「去年、旧大英帝国には、ほかにもっといい作品がなかったのか…

Laurent Binet の “HHhH” (4)

最後の補足をしておこう。おととい引用した箇所を読めばすぐにわかるとおり、ここでは「暗殺が今そこにある事件として語られ、事件と平行して、小説が今そこで生まれつつある作品として書き進められ」ている。作者は「神のごとき全知全能の存在として自分の…

Francesca Segal の “The Innocents” (1)

あと1回、Laurent Binet の "HHhH" について補足しなければと思っていたが、2012年のコスタ賞最優秀新人賞受賞作、Francesca Segal の "The Innocents" を先ほど読みおえたので、きょうはそのレビューを書いておこう。The Innocents作者:Segal, FrancescaVi…

Laurent Binet の “HHhH” (3)

論より証拠、「本書における実況中継が、たんなる事件の再現のための手段にとどまっていない」箇所を引用しておこう。ゲシュタポの最高司令官、ラインハルト・ハイドリヒの暗殺犯が襲撃に取りかかる瞬間である。 I think I'm beginning to understand. What …

Laurent Binet の “HHhH” (2)

あちらの新刊小説を追いかけていると、年に一冊は必ずナチス物、ホロコースト物に出くわすものだ。あの悲劇が人類史上の大事件であったことを物語る証拠のひとつだが、史実というよりフィクションの題材として、大なり小なり似たような話に定期的に接してい…

Laurent Binet の “HHhH” (1)

Laurent Binet の "HHhH" を読了。今年の全米批評家協会賞の最終候補作で、2010年のゴンクール賞新人賞の受賞作でもある。さっそくレビューを書いておこう。HHhH作者:Binet, LaurentRandom House UK LtdAmazon[☆☆☆☆★] 従来のナチス物、ホロコースト物の定型…

“HHhH” 雑感

Laurent Binet の "HHhH" をボチボチ読んでいる。今年の全米批評家協会賞の候補作で、巻頭の紹介記事によると、ゴンクール賞新人賞の受賞作(2010年)とのこと。 例によって内容も確かめずに注文したが、表紙からナチス物だとすぐにわかった。 'HHhH' they s…