ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

"Childhood, Boyhood, Youth" 雑感(5)

"Youth" の最後に '24 September 1856 Yasnaya Polyana' (p.393) とあったので、奥付を見ると、ロシア語版は1852年から同57年刊とのこと。そこでネットで Tolstoy の生年を調べたところ、同28年。つまり本書は、彼が24歳から28歳にかけて書いた作品というこ…

"Childhood, Boyhood, Youth" 雑感(4)

Tolstoy の自伝小説を読んでるんだって? おもしろいの? という声が聞こえてきそうだが、それがけっこうおもしろい。15年前に初めて読んだときもそうだった。 むろん、たとえば起伏に富んだ展開とか、ユニークな人物の登場とか、感動的な結末とか、通常の小…

"Childhood, Boyhood, Youth" 雑感(3)

Tolstoy にかんする研究書、学術論文は当然あまたあるはずだが、ぼくの手元にあるのは、Dostoevsky と対比しながら論じた George Steiner の "Tolstoy or Dostoevsky" 一冊のみ。Dostoevsky ともども、二人の巨人について知るべき、考えるべき問題が網羅され…

"Childhood, Boyhood, Youth" 雑感(2)

15年前に本書を読んだとき、レビューは書かなかったが、エクセルの読書記録に一口メモだけ残していた。「自分のエゴイズムを誠実に見つめる」。今回もその印象は変わらない。 "Childhood" のハイライトは、なんといっても少年 Tolstoy の母親の死だろう。'Wi…

"Childhood, Boyhood, Youth" 雑感(1)

そのうち現代文学も採りあげねば、と思いつつ、今回も長年の宿題を片づけることにした。といっても、"Klingsor's Last Summer" や "Death in Venice" のように半世紀、あるいはそれに近いものではない。読書記録を調べると、15年前に一度読んだことのある To…

Thomas Mann の “Death in Venice”

Thomas Mann の短編は高校生のとき、途中で挫折したり、最後まで読んでも読んだ気がしなかったり。以来、長らく宿題となってしまったが、昨年末、Vintage 版で悪戦苦闘しながら読了。それからさらに雑感を書きつづけ、今日やっと、以下のレビューらしきもの…

"Death in Venice" 雑感(17)

表題作と次の "Tonio Kroger" だけで16回も駄文を書き連ねてしまった。のこりの短編については駆け足ですませよう。ほんとうは、そんな不遜なことを言ってはいけない作品ぞろいなのだが、どれも初読のわりには、少なくとも "Tonio Kroger" の難所ほど頭を悩…

"Death in Venice" 雑感(16)

"Tonio Kroger" については今日でおしまい。昨年12月に読み終えたあと、メモを頼りに拾い読みしながら分析らしきものを試み、ようやく再び結末にたどり着いた。 じつはここ、高校生のときは、あ、またむずかしい話が始まったなと思って軽く流してしまった箇…

"Death in Venice" 雑感(15)

今日は昨日の補足から。'Hans Hansen and Ingeborg Holm walked through the room.' という一文を目にしたときは、「え、と思わず叫んでしまった」ものだが、実はこの2人、本物の Hans と Ingeborg ではなかったかもしれない。そう思えるくだりがある。 そ…

"Death in Venice" 雑感(14)

まず前回の訂正から。前回の最後、「勘違いの可能性も大きい」と自分で書いたことが気にかかり、改めてじっくり該当箇所 (p.104) を読み直してみた。すると、Tonio に対し、'You are a bourgeois.' と述べた Lizabeta の 'solution' について、もっと文脈に…

"Death in Venice" 雑感(13)

"Tonio Kroger" 第4部後半の続き。Tonioによれば、ものごとの本質を危険な領域まで見極めようとする文学者にとって、'All knowledge is old and tedious' である。それゆえ 'literature is a wearing job' ということになる (p.101)。また、言葉には Lizabe…

"Death in Venice" 雑感(12)

さて、こんどは "Tonio Kroger" 第4部の後半である。まず前半の復習から。Tonio によれば、芸術家は、文学者は、一般市民や大衆とは異なる立場に身を置いている。彼らは 'the sense of being set apart and not belonging' (p.98) をそなえ、それゆえ、その…

"Death in Venice" 雑感(11)

"Tonio Kroger" の第4部。舞台はミュンヘン。Tonio は作家となっている。高校時代に邦訳で読んだとき、ここから本格的にむずかしくなり、途中で投げ出したくなった。ろくにわからないまま、字面だけ追いかけていたような気がする。 ここで Tonio は友人の女…

"Death in Venice" 雑感(10)

〈若き日の芸術家 Tonio の肖像〉を端的に描いたくだりがある。'So for all result he was flung to and fro forever between two crass extremes: between icy intellect and scorching sense, .... "What a labyrinth!" he sometimes thought. "How could …

"Death in Venice" 雑感(9)

"Tonio Kroger" の第3部。高校時代に新潮文庫版で読んだとき、このあたりから徐々にむずかしくなってきた気がする。今回の Vintage 版でも同じ印象を受けた。 かいつまんで言えば、〈若き日の芸術家 Tonio の肖像〉とでも題せるような内容である。Tonio が…

"Death in Venice" 雑感(8)

"Tonio Kroger" の第1部〈Hans Hansen 篇〉がおわって、こんどは第2部〈Ingeborg Holm 篇〉。どちらも青春小説のおもむきがあり、後半に較べると取り組みやすい。ぼくも高校時代、このあたりまではスイスイ読んだ憶えがある。といっても、たとえば前者にお…

"Death in Venice" 雑感(7)

Thomas Mann の短編といえば、一に "Death in Venice "、二に "Tonio Kroger"。と Vintage 版短編集の編者も思ったのか、表題作に続いて収められているのが後者。これまたぼくは高校生のとき、やはり新潮文庫版で挫折して以来、長年手が伸びなかった。 挫折…