ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧

Han Kang の “The Vegetarian” (2)

韓国の作家の作品を英訳版で読むのは、下にレビューを再録した Kyung-Sook Shin の "Please Look after Mom" に次いで2冊目。取りかかる前は少し不安だった。なにしろ、歴史問題や政治問題のせいで彼の国は「近くて遠い国」になりつつある。文学の世界でも…

Yann Martel の “The High Mountains of Portugal” (3)

べつに "The Vegetarian" が先でもよかったのだが、とりあえず読んだ順に、"The High Mountains of Portugal" のほうから補足しておこう。 といっても、これは雑感でも書いたとおり「まことにケッタイな小説」である。その奇想天外ぶりを詳細に説明したので…

Han Kang の “The Vegetarian” (1)

きょうは Yann Martel の "The High Mountains of Portugal" について少し補足しようと思ったのだが、仕事のあいまに読んでいた今年のブッカー国際賞 (The Man Booker International Prize) 受賞作、Han Kang の "The Vegetarian" を読了。韓国語からの英訳…

Yann Martel の “The High Mountains of Portugal” (2)

これは雑感でも書いたとおり、ご存じ2002年のブッカー賞受賞作、"Life of Pi" ほどのクイクイ度ではない。が、それでも3作つづけて読んだ(あちらのファンが選んだ)今年のブッカー賞有資格候補作の中では、本書がいちばん出来がいいと思う。 そういえば、…

Yann Martel の “The High Mountains of Portugal” (1)

Yann Martel の最新作、"The High Mountains of Portugyal" を読了。あちらのファンのあいだでは、今年のブッカー賞の有資格候補作と目されている。ペイパーバック版は日本では未発売だが、アマゾン・カナダで買うと、送料込みでも日本で売られているハード…

"The High Mountains of Portugal" 雑感 (2)

これはまことにケッタイな小説だ! マジックリアリズムやメタフィクションその他、今までいろいろフシギな作品に出会ったが、これはその中でも、そう、ベスト?テンに入るほどの奇想小説である。今のところ。 全体は3部構成で、タイトルにいちばん関係あり…

"The High Mountains of Portugal" 雑感 (1)

Yann Martel の最新作、"The High Mountains of Portugal" を読んでいる。Garth Greenwell の "What Belongs to You" や Graham Swift の "Mothering Sunday" 同様、本書もあちらのファンのあいだでは、今年のブッカー賞の有資格候補作に挙げられているよう…

Graham Swift の “Mothering Sunday” (2)

Graham Swift の小説を手にしたのはずいぶん久しぶりだ。読書記録を調べると、ちょうど10年前に読んだ "The Light of Day" (2003) 以来である。 そのあいだに Swift がどんな作品を書いてきたかは知らない。が、彼の名前はぼくの頭にずっと残っていた。ご存…

Graham Swift の “Mothering Sunday” (1)

Graham Swift の最新作、"Mothering Sunday" を読了。あちらのファンのあいだでは、今年のブッカー賞の有資格候補作と目されている。わりと好評のようだ。(追記:本書は2021年、エバ・ユッソン監督によって映画化され、日本でも2022年に公開されました。邦…

Garth Greenwell の “What Belongs to You” (2)

前々回、ぼくは以前の記事を引いてゲイ小説への偏見を披露した。「ゲイの世界でなければ描きえない人生の真実にどんなものがあるか、ぼくには想像もつかない……。恋愛についてなら男女関係だけで十分、いや十分すぎるほど語れるはずなのに、どうしてゲイでな…

Garth Greenwell の “What Belongs to You” (1)

ゆうべ Garth Greenwell の "What Belongs to You" (2016) を読了。Greenwell はアメリカの新人作家で、本書は彼の処女作だが、イギリスでも4月にハードカバーが刊行。現地のファンのあいだでは、今年のブッカー賞の有資格候補作に擬せられている。 追記:…

"What Belongs to You" 雑感 (2)

さて、本書はぼくにとって今年2冊目のゲイ小説。この前読んだのは2004年のブッカー賞受賞作、Alan Hollinghurst の "The Line of Beauty" [☆☆☆] である。同書にからめてぼくはこんなことを書いた。 「ぼくは小説の題材については非常に寛容で、interesting …

"What Belongs to You" 雑感 (1)

Garth Greenwell の "What Belongs to You" を読んでいる。日本での発売は今年の1月19日。ようやく、ほぼリアルタイムで現代文学に取り組むことになった。 本書を読もうと思ったきっかけは、あちらの文学ファンのあいだで、これが今年のブッカー賞の有資格…

Lauren Groff の “Fates and Furies” (4)

小説のテーマ的なおもしろさを大ざっぱに分けて、知的昂奮をかきたてるものと、心の琴線に触れるものがある。この二つはもちろん重なる場合もあるが、それをふくめてどちらとも同じスタンスで評価していいのか。両者に優劣はあるのか、ないのか。 前回提示し…

Lauren Groff の “Fates and Furies” (3)

俗に「おもしろい本」と言うし、ぼくもふだんそう言うことが多い。が、よく考えてみると、その「おもしろい」とはどういう意味だろうか。 大ざっぱに分類すると、1.テーマ、2.ストーリー、3.登場人物、4.語り口、5.構成などの点で、それぞれのおも…

Lauren Groff の “Fates and Furies” (2)

これは好みの分かれる作品かもしれない。実際、ぼくも第1部の終盤までは、「それなりにおもしろく読める程度と高をくくっていた」。 が、急展開を告げる第1部の結末から第2部にかけては、(ぼくの好みでは)文句のつけようがない。で、最後まで読み切り前…