ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2018-01-01から1年間の記事一覧

Anna Burns の “Milkman”(2)

いつかも書いたが、これは読んでいる最中から「旧大英帝国産の馬の中では最高の仕上がり」と思っていた。読後の感想もそのとおり。レビューで指摘したような欠点はあるものの、本書がブッカー賞のショートリストに入選したのは順当な結果でしょうね。 巻頭の…

Joan Silber の “Improvement”(1)

今年の全米批評家協会賞受賞作、Joan Silber の "Improvement"(2017)を読了。さっそくレビューを書いておこう。Improvement作者:Silber, JoanCounterpoint LLCAmazon[☆☆☆★] 人生に迷っているひとが読めば心が晴れるかもしれない自己啓発小説。ただし、目か…

2018年ブッカー賞ショートリスト発表と、ぼくのランキング

ロンドン時間で20日、ブッカー賞のショートリストが発表された(この記事は21日付ですが、実際は20日に書きました)。今年はロングリストに入選した全13作のうち10作を読了。「文学老人」にしては、久しぶりにがんばりました。 ロングリストのランキングは7…

Lawrence Durrell の “Balthazar (Alexandria Quartet 2)”(1)

きのう、Lawrence Durrell の "Balthazar"(1958)を読了。周知のとおり、"Justine"(1957)に始まる Alexandria Quartet の第二巻である。さっそくレビューを書いておこう。Balthazar (Alexandria Quartet)作者:Durrell, LawrencePenguin BooksAmazon[☆☆☆☆★]…

Sally Rooney の “Normal People”(2)

この連休中、法事で福井に出かけた。あいにく雨模様だったが、宿泊した芦原温泉近くの東尋坊を訪れたときだけ、さいわい晴れ間がのぞき、初めて見る奇観に文字どおり目を奪われた。 タクシーの運ちゃんの話によると、サスペンスドラマの帝王も女王もまだ東尋…

Lawrence Durrell の "Justine (Alexandria Quartet 1)"(2)

去る7月、Joyce Carol Oates の Wonderland Quartet の掉尾を飾る "Wonderland"(1971 ☆☆☆★★★)を読みおえたとき、こんどはいよいよ Alexandria Quartet だな、と心に決めていた。そもそも、積ん読の山の中で質量ともに大山塊とも言うべきこの4部作の攻略…

Robin Robertson の “The Long Take”(1)

今年のブッカー賞候補作、Robin Robertson の "The Long Take"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)The Long Take: Shortlisted for the Man Booker Prize作者:Robertson, RobinPicador…

Anna Burns の “Milkman”(1)

今年のブッカー賞候補作、Anna Burns の "Milkman"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)Milkman作者:Burns, AnnaFaber & FaberAmazon[☆☆☆★★★] 多くの人びとが誤情報や偽情報を真実と見…

Rachel Kushner の “The Mars Room”(2)

ブッカー賞レースにアメリカ馬が参戦するようになったメリットのひとつとして、ベストセラーリストの上位以外でも、アメリカのすぐれた新作小説に出会う機会が増えた、ということがあるかもしれない。アマゾンUSやニューヨーク・タイムズのリストをチェック…

Guy Gunaratne の “In Our Mad and Furious City”(2)

Anna Burns の "Milkman"(2018)をボチボチ読んでいる。最初はただのストーカー小説くらいに思っていたが、どうしてどうして、けっこう知的昂奮をかき立てられるくだりもあって、なかなか面白い。ひょっとしたら、今年のブッカー賞レースに出走した旧大英帝…

Sally Rooney の “Normal People”(1)

今年のブッカー賞候補作、Sally Rooney の "Normal People"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)Normal People作者:Rooney, SallyFaber & FaberAmazon[☆☆☆] 精神医学はさておき、ノーマ…

Lawrence Durrell の "Justine(Alexandria Quartet 1)"(1)

きのう Lawrence Durrell の "Justine"(1957)を読了。周知のとおり、これは The Alexandria Quartet の第1部であり、本来なら著者の意図どおり、4部作を a single work として読み、レビューを書くべきところだが、いつになったら完読できるのかわからな…

Daisy Johnson の “Everything Under”(2)

これはイギリスの若手女流作家の長編デビュー作。つまり前回まとめた Sophie Mackintosh の "The Water Cure" と同じわけだが、Daisy Johnson のほうがずっとうまい。いまのところ、ぼくが読んだイギリス勢の中では先頭を切っている。 かなりトリッキーな要…

Sophie Mackintosh の “The Water Cure”(2)

ぼくはもう年金生活なので、ブッカー賞の候補作だからといって、昔のようにぜんぶまとめて注文するわけには行かない。とりあえず、気になる作品だけ手をつけることにした。 この "The Water Cure" は、届いた本のカバーには載っていなかったが、ネットの商品…

Rachel Kushner の “The Mars Room”(1)

今年のブッカー賞候補作、Rachel Kushner の "The Mars Room"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)The Mars Room作者:Kushner, RachelRandom House UK LtdAmazon[☆☆☆★] 看板に偽りあり…

Michael Ondaatje の “Warlight”(2)

これは今年のブッカー賞ロングリストの発表以前から、現地ファンのあいだでは下馬評が高かった。あまり当たったためしがないと記憶する William Hill の予想でも一番人気。オッズどおり、ショートリスト入りも確実かもしれない。 が、ほんとにそんなにすぐれ…

Guy Gunaratne の “In Our Mad and Furious City”(1)

今年のブッカー賞候補作、Guy Gunaratne の "In Our Mad and Furious City"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)In Our Mad and Furious City: Winner of the International Dylan Thom…

Daisy Johnson の “Everything Under”(1)

今年のブッカー賞候補作、Daisy Johnson の "Everything Under"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)Everything Under作者:Johnson, DaisyGraywolf PressAmazon[☆☆☆★★★] 冒頭は認知症の…

Joyce Carol Oates の “Wonderland”(2)

Joyce Carol Oates はほんとうに息の長い作家だ。ざっと50年のキャリアを誇り、おん年80歳で現役バリバリ。 しかも、デビュー当時から現在にいたるまで終始一貫、評価の高い作品を書き続けている。それなのにまだノーベル賞を受賞していないとは、世界の文学…

Sophie Mackintosh の “The Water Cure”(1)

今年のブッカー賞候補作、Sophie Mackintosh の "The Water Cure"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)The Water Cure: LONGLISTED FOR THE MAN BOOKER PRIZE 2018作者:Mackintosh, Soph…

Richard Powers の “The Overstory”(2)

恥ずかしながら、Richard Powers の作品はいままで読んだことがなかった。書棚に何冊か旧作は陳列してあるのだが、どれも分厚くて、しかもコワモテ。何だかとっつきにくそうで敬遠していた。 しかし去る5月ごろ、今年のブッカー賞の下馬評をチェックしてい…

Michael Ondaatje の “Warlight”(1)

今年のブッカー賞候補作、Michael Ondaatje の "Warlight"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)Warlight: A novel作者:Ondaatje, MichaelKnopfAmazon[☆☆☆★★] 青春時代にはいつも嵐が吹き…

Joyce Carol Oates の “Wonderland”(1)とワンダーランド四部作

きのう、1972年の全米図書賞最終候補作、Joyce Carol Oates の "Wonderland"(1971)を読了。周知のとおり、これは〈ワンダーランド4部作〉の掉尾を飾る作品でもある。既読3作のレビューもあわせて再録しておこう。Wonderland (The Wonderland Quartet)作…

2018年ブッカー賞ロングリスト発表

ロンドン時間で24日、ブッカー賞のロングリストが発表された。ゴールデン・ブッカー賞との2冠達成か、と期待される Michale Ondaatje はやはり入選。話題づくりでしょうかね。 個人的にうれしかったのは、現地ファンの下馬評を頼りにあらかじめ読んでいた R…

Donal Ryan の “From a Low and Quiet Sea”(2)

昼のニュース番組を見ていたら、西日本豪雨による被害は人災だ、と某政治ジャーナリストが力説していた。治水をふくむ事業仕分けのことかと思ったが、さにあらず。もっと早く厳戒態勢を敷いていたらあれほどの被害は出なかった、という話だった。 ぼくの郷里…

Richard Powers の “The Overstory”(1)

このところボチボチ読んでいた Richard Powers の新作 "The Overstory" をやっと読了。さっそくレビューを書いておこう。The Overstory作者:Powers, RichardW. W. Norton & CompanyAmazon[☆☆☆★★★] エコロジーは地球規模の問題であり、また政治や経済、社会、…

Kamila Shamsie の “Home Fire”(2)

きのうも大雨関連のニュースを見ていたら、愛媛県宇和島市からの中継があった。吉田町では断水が続き、ミカン栽培も大打撃を受けているらしい。 また宇和島市や西予市に住む親戚、友人たちの話によると、吉田町は陸の孤島と化している。国道は寸断され、JR…

David Mitchell の “Cloud Atlas”(2)

こんどの大雨でぼくの郷里、愛媛県宇和島市も大変なことになっている。テレビでしばしば報道されている土砂崩れが起きたのは吉田町白浦。ニュースを知って驚き、同町立間でミカン農家を営んでいる友人に電話したところ、さいわい友人は無事。しかし立間でも…

Donal Ryan の “From a Low and Quiet Sea”(1)

アイルランドの作家 Donal Ryan の新作 "From a Low and Quiet Sea"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。From a Low and Quiet Sea: A Novel作者:Ryan, DonalPenguin BooksAmazon[☆☆☆★★] 心に深い傷を負った人びとの人生行路、とりわけ出会いと…

ぼくのゴールデン・ブッカー賞

ゴールデン・ブッカー賞(the Golden Man Booker Prize)の発表(ロンドン時間で今月8日)が近づいてきた。ご存じの方も多いと思うが、ブッカー賞財団では、同賞が設立されて今年で50年になるのを記念して、50年間の受賞作の中から最優秀作品を選ぶイベント…