ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2020-01-01から1年間の記事一覧

Peter Carey の “Oscar and Lucinda”(4)

Peter Carey の作品を読むのは10年ぶり3冊目。3冊のなかでは本書がいちばん出来がいい。最近 catch up したブッカー賞の受賞作・候補作に目を移しても、面白度という点では "Number9Dream"(☆☆☆☆)といい勝負。そちらのほうがぼく好みだが、本書のほうが面…

Peter Carey の “Oscar and Lucinda”(3)

今年のブッカー賞ショートリストは、現地ファンにとって大波乱だったようだ。ちょっと拾っただけでも、こんな悲痛な叫び声が上がっている。'What a mess - this year's booker shortlist is a complete disaster.' 'Wow - I'm in absolute shock.' 'This sho…

Peter Carey の “Oscar and Lucinda”(2)

いよいよブッカー賞ショートリストの発表が迫ってきた(ロンドン時間15日)。何度も書いたが、ぼくは "The Mirror & the Light"(☆☆☆★★)を読んだだけで、ほかの候補作は未読。なにしろ、だれがどう見ても今年最大の興味は、Hilary Mantel が Wolf Hall Tril…

Peter Carey の “Oscar and Lucinda”(1)

1988年のブッカー賞受賞作、Peter Carey の "Oscar and Lucinda" を読了。本書は2008年、ブッカー賞設立40周年を記念して企画された the Best of the Booker Prize の最終候補作でもある。さっそくレビューを書いておこう。 Oscar and Lucinda (Vintage Inte…

Rohinton Mistry の “Such a Long Journey”(2)

Rohinton Mistry のことは、長いあいだ気になっていた。ぼくがブッカー賞なるものの存在を知ったのは2000年の夏だが、当時はそれほど関心もなく、その後も最新の、あるいは過去の受賞作を読むだけで、候補作にまでは手を伸ばさなかった。 それでもいつか読も…

Rohinton Mistry の “Such a Long Journey”(1)

きのう、1991年のブッカー賞最終候補作、Rohinton Mistry の "Such a Long Journey" を読了。さっそくレビューを書いておこう。 Such a Long Journey: Faber Modern Classics 作者:Mistry, Rohinton 発売日: 2016/02/04 メディア: ペーパーバック [☆☆☆★★] 人…

David Mitchell の “Number9Dream”(2)

これはほんとうに面白かった! 読んでいる最中はいつまでも物語がつづいてほしいと思い、読後数日たったいまでもまだ心のなかに余韻がのこっている。まるで麻薬でも盛られたような気分だ。こんな経験は最近ちょっと記憶にない。 とはいえ、落ち着いて振り返…

David Mitchell の “Number9Dream”(1)

2001年のブッカー賞最終候補作、David Mitchell の "Number9Dream" を読了。さっそくレビューを書いておこう。 Number9Dream: A Novel 作者:Mitchell, David 発売日: 2003/02/11 メディア: ペーパーバック [☆☆☆☆] 屋久島育ちの青年が、いちども会ったことが…

"Number9Dream" 雑感

連日の猛暑だが、今夏もわが家にはクーラーがない。あるのは、うちわと扇風機だけ。家じゅうの窓を開けはなち、頭に濡れタオルという湯上がりスタイルで過ごし、暑さを感じるたびにその濡れタオルで身体をよく拭き、こまめに水分を補給。これでなんとかしの…

Ben Okri の “The Famished Road”(2)

きょうは終戦記念日。(時差を無視すれば)ちょうど1年前のきょうの夕方、ぼくはマルセイユの海岸通りに面したレストランで、のんびりブイヤベースに舌つづみを打っていた。 あれから1年。世界の状況は現象的には一変した。が、本質的に変化したわけではな…

Ben Okri の “The Famished Road”(1)

1991年のブッカー賞受賞作、Ben Okri の "The Famished Road"(Anchor Books 版)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 The Famished Road (The Famished Road Trilogy) 作者:Okri, Ben 発売日: 1992/07/27 メディア: ペーパーバック [☆☆☆☆] 私見だがマ…

Peter Matthiessen の “Shadow Country”(2)

先日ご存じのとおり、今年のブッカー賞ロングリストが発表された。例によって現地ファンは、各自の予想やお気にいりの作品などをめぐって大いに盛り上がっている。これほどファンが熱くなる文学賞も、世界広しといえどもほかにはまずないだろう。 が、全13冊…

Peter Matthiessen の “Shadow Country”(1)

2008年の全米図書賞受賞作、Peter Matthiessen の "Shadow Country" をやっと読了。The Watson Trilogy の合冊リメイク版で、合冊前の旧題は、第1部 "Killing Mister Watson"(1990)、第2部 "Last Man's River"(1997)、第3部 "Bone by Bone"(1999)。…

"Shadow Country" 雑感(2)

ブッカー賞ロングリストの発表が迫ってきた(ロンドン時間28日)。例によって現地ファンのヒートアップぶりは相当なものだが、ぼくは今年は1冊しか〈ロングリスト候補作〉を読んだことがないので("The Mirror & the Light" ☆☆☆★★)、個人的にはまったく盛…

"Shadow Country" 雑感

けさ弟からの電話で知ったのだが、ぼくのふるさと愛媛県宇和島市でも初めて新型コロナウィルス感染者が出たらしい。京都から帰ってきた大学生という話だが、なにしろ商店街でも昼間からシャッターを下ろしている店が目だつ、元からみんな外出自粛しているよ…

William Faulkner の “A Fable”(4)

そろそろまじめに落ち穂拾いをしておこう。第一次大戦の末期、西部戦線で仏軍連隊の伍長が突撃命令に従わなかったことをきっかけに奇妙な停戦がはじまり、老将軍が伍長を尋問。将軍は、伍長が全軍に及ぼす重大な影響力を認め、その立場を失墜させるべく戦場…

William Faulkner の “A Fable”(3)

きのう、恥ずかしながらロジェ・ヴァディム監督の『危険な関係』を初めて観た。まさにキケンな映画ですな。不倫ゲームがやがてゲームでなくなるなか、遊びにしろ本気にしろ、ジャンヌ・モローはどちらもみごとに演じ切っている。こんなに芸域の広い女優は、…

William Faulkner の “A Fable”(2)

その後、腰の違和感はだいぶ薄らいできたものの、曾野綾子の言うとおり「すべての変化は予兆」。将来ほんとうに恐ろしいことになるかもしれない。そうならないよう、毎日ストレッチに励んでいる。 腰が気になり読書から遠ざかっているあいだ、これもやはり予…

William Faulkner の “A Fable”(1)

ゆうべ、William Faulkner の "A Fable"(1954)を読了。1955年のピューリツァー賞および全米図書賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。 A Fable (Vintage International) (English Edition) 作者:Faulkner, William 発売日: 2011/05/18 メディ…

"A Fable" 雑感

諸般の事情でしばらく読書から遠ざかっていた。まず、腰を痛めた。原因はたぶん掃除のしすぎだろうが、ネットで調べると恐ろしいことが書いてある。とりあえずストレッチに励んだ結果、さいわい、いまではだいぶよくなったものの、まだ違和感がのこっている。…

Edwidge Danticat の “The Dew Breaker”(2)

先週初め、Criterion のブルーレイ盤 "Ivan's Childhood"(1962)がやっと届いた。3月なかごろ英アマゾンに注文したところ未着。あきらめきれず、先月再注文。鶴首して待っていた。 あちらのレビューどおり、画質はとてもいい。日本で発売されている『僕の…

Edwidge Danticat の “Everything Inside”(2)

このところ、Faulkner の "A Fable"(1954)をボチボチ読んでいる。予想どおり、むずかしい。まだ序盤ということもあって、テーマがつかみにくい。いろいろ考えさせられ、なかなか先へ進まない。 同書は1955年のピューリツァー賞および全米図書賞受賞作。表…

Edwidge Danticat の “The Dew Breaker”(1)

Edwidge Danticat の "The Dew Breaker" を読了。2004年の全米批評家協会賞最終候補作、および2005年のペン/フォークナー賞最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。 The Dew Breaker (Vintage Contemporaries) 作者:Danticat, Edwidge 発売日: 2…

Edwidge Danticat の “Everything Inside”(1)

きのう、今年の全米批評家協会賞受賞作、Edwidge Danticat の "Everything Inside"(2019)を読了。この賞は前年度の作品が対象なので、正式には2019年の受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。 Everything Inside: Stories (English Edition) 作者…

Edna O'Brien の “The Country Girls Trilogy”(2)

先週注文していた関根敏行トリオの廃盤『ストロード・ロード』がきょう到着。長らく入手困難だったが、最近出品に気がつきゲットした。期待どおり超ゴキゲン! ストロード・ロード アーティスト:関根敏行トリオ 発売日: 2007/02/02 メディア: CD さて前々回…

Edna O'Brien の “The Country Girls Trilogy”(1)

数日前、Edna O'Brien の "The Country Girls Trilogy" を読了。第1巻 "The Country Girls"(1960)、第2巻 "The Lonely Girl"(1962)、および第3巻 "Girls in Their Married Bliss"(1964)の合冊版(1987)である。 合冊の際、エピローグが補足されて…

“The Country Girls Trilogy” 雑感

このところ、Edna O'Brien の "The Country Girls Trilogy" をぼちぼち読んでいる。例によって、いつ、どんないきさつで入手したかは不明。前回まで扱った "The Balkan Trilogy" 同様、『新潮世界文学辞典』の年表には載っていない。が、こんどは作者にも題…

Olivia Manning の “The Balkan Trilogy”(2)

前々回、コロナの時代の読書はどうあるべきか、と書いた。大げさな問いのわりに、他愛もない答えだったが、それを故内藤陳ふうにまとめると、「読まずに死ねるか!」「読まずば二度死ね!」 早いところ、名作・傑作を読もうというわけだ。 亡き恩師も、若い…

Olivia Manning の “The Balkan Trilogy”(1)

きのう、Olivia Manning の "The Balkan Trilogy"(合冊版1987)を読了。第1巻 "The Great Fortune" は1960年刊、第2巻 "The Spoilt City" は1962年刊、第3巻 "Friends and Heroes" は1965年刊。さっそくレビューを書いておこう。 The Balkan Trilogy 作…

"The Balkan Trilogy" 雑感

コロナの時代の読書はどうあるべきか。 なに言ってるんだい。こんな時代だからといって、べつに新しい読みかたがあるわけじゃない。ただ読みたいものを読めばいいのさ。 たしかにそのとおり。時節柄、充実した自粛生活を送るべく、小説ファンなら未読の名作…