ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2023-01-01から1年間の記事一覧

2023年ぼくのベスト小説

きのう Jonathan Escoffery の "If I Survive You"(2022 ☆☆☆★★)を読みおえ、今年の(途中から決めた)読書予定も終了。 あしたから十何年ぶりかでスキー旅行に出かけ、人生ではじめてスキー場で年末年始をすごすことになっている。そのため、毎年大みそか…

Jonathan Escoffery の “If I Survive You”(1)

今年のブッカー賞最終候補作、Jonathan Escoffery(1980 - )の "If I Survive You"(2022)を読了。Escoffery はジャマイカ系アメリカ人の作家で、デビュー作の本書は昨年の全米図書賞一次候補作でもあった。 ブッカー賞候補作というからには長編と判断され…

Paul Murray の “The Bee Sting”(2)

長かったぁ。これ正直いって、本書を読みおえた直後のいちばんの感想です。早く終わらんかい、とキレるほどではなかったけど、途中からもう、長ぁい。 けれど、同じく超大作で、やはり青春小説かつホームドラマでもあった Barbara Kingsolver の "Demon Copp…

Paul Harding の “This Other Eden”(2)

Paul Harding を読んだのは、2010年のピューリツァー賞受賞作、"Tinkers"(2009 ☆☆☆★★★)以来二冊めだ。 これ、なかなかよかったよ、と当時同僚のオーストラリア人に話したところ、日本語が堪能で下ネタ好きの彼いわく「チンコーズ!」。思わず吹きだしてし…

Paul Murray の “The Bee Sting”(1)

本書も途中、大休止をはさんでしまったが、きのうやっと読みおえた。ご存じ今年のブッカー賞最終候補作である。 Paul Murray(1975 - )はアイルランドの作家で、"An Evening of Long Goodbyes"(2003 未読)でデビュー。第二作の "Skippy Dies"(☆☆☆☆)は20…

Sarah Bernstein の “Study for Obedience”(5)

あっ、今年はモツレクを聴かなかった! そう気づいたのは数日前のこと。モーツァルトの絶筆「レクイエム」は凄絶なだけにBGMむきではないけれど、それでも例年、命日の12月5日前後には架蔵盤をぜんぶ聴いていた。しかしいまも流しているのは昔なつかし Eagl…

Sarah Bernstein の “Study for Obedience”(4)

きょうはジムで2+4+4キロ走。けっこう快調だった。 行き帰りのバスで読んでいた "The Bee Sting" も相変わらず快調。やっと中盤に差しかかったところだけど、今年のブッカー賞候補作でイチオシという感想も変わらない。それどころか、☆☆☆★★★でもよかん…

Sarah Bernstein の “Study for Obedience”(3)

きょうもジムで2+8キロ走。やっぱりバテた。でも今月はもう十何年ぶりになるのかスキーに行く予定なので、少しは足腰を鍛えておかないと。ウソかほんとか、ぼくのような高齢者でも、鍛錬しだいで筋力はアップするんだそうだ。 だけど知力のほうは明らかに…

2023年ブッカー賞発表とぼくのランキング

あれっ、とんだ勘ちがい! てっきり、ブッカー賞の発表は12月初旬だと思っていたら、なんと三日前にもう発表があったとは…… ああ、現地ファンの下馬評どおり、Paul Lynch の "Prophet Song"(2023)が受賞かぁ。先ほどチェックしているうちに気がつきました…

Sarah Bernstein の “Study for Obedience”(2)

やっと体調がもどり、きょうはジムで2+8キロ走。さすがにバテた。 おかげで帰りのバスではコックリさんだったが、行きに読んでいたのは Paul Murray の "The Bee Sting"(2023)。例によってカタツムリくんのペースながら、内容そのものは依然快調だ。 Pa…

Paul Lynch の “Prophet Song”(4)

この十日ばかり、またしても絶不調だった。急激な冷え込みと極端な寒暖差に身体が対応せず、てきめん風邪をひいてしまった。 コロナでもインフルでもなく、ただ喉が痛く、黄色い鼻水が出て、7度にも満たぬ発熱。そんな気分のすぐれない日がずっとつづいた。…

Paul Harding の “This Other Eden”(1)

きのう、今年のブッカー賞最終候補作、Paul Harding(1967 - )の "This Other Eden"(2023)を読了。Paul Harding は周知のとおり2010年に "Tinkers"(2009 ☆☆☆★★★)でピューリツァー賞を受賞。 同賞の受賞作家がブッカー賞のショートリストにのこるのは、E…

Paul Lynch の “Prophet Song”(3)

外は冷たい雨。拙宅の前の公園を見わたすと、きのうの夕方、きれいに掃除したばかりのベンチまわりに桜の落葉がみごとに散乱している。 桜といえばもちろん春の季語で、古来、小野小町をはじめ多くの歌人・俳人たちに詠まれてきた。大昔の拙句だが、 はらは…

Paul Lynch の “Prophet Song”(2)

10月27日からはじまった読書週間が昨日でおわった。新聞によると、「あるアンケートでは、1ヵ月間に全く本を読まないという回答が半数近くを占めた。原因の一つは『読みたい本が分からない』こと」。 ぼくも他人ごとではなく、この春ごろから読書量が激減。…

Sarah Bernstein の “Study for Obedience”(1)

またしても途切れ途切れの読書だった。昨日、Sarah Bernstein の "Study for Obedience"(2023)をやっと読了。Sarah Bernstein(1987 - )はカナダ出身の作家で、現在はスコットランド在住。デビュー作は "The Coming Bad Days”(2021 未読)。本書は彼女の…

Michel Houellebecq の “Submission”(3)

本書を読もうと思ったきっかけは、後日起きた大事件とはなんの関係もない。遅まきながら注文した今年のブッカー賞最終候補作が手元に届くまでの、いわば場つなぎに、積ん読の山からテキトーに見つくろっただけだ。 Houellebecq はフランスのベストセラー作家…

Paul Lynch の “Prophet Song”(1)

きのう、今年のブッカー賞最終候補作、Paul Lynch の "Prophet Song"(2023)を読了。前回途中経過を報告した翌日、一気に終盤まで進んだのはいいけれど、そのあと急に飽きてしまい、それから一日数ページのペースだった。 しかしいま、現地ファン投票による…

Michel Houellebecq の “Submission”(2)

先週7回目のコロナワクチン接種を受けてから絶不調。こんども副反応がひどかった。めずらしく高熱こそ出なかったものの、注射したほうの腕と両手がやけに痛かった。鎮痛剤を服まないと痛みがぶり返し、ほとんどコロナにかかったようなものだった。 いまも、…

Siân Hughes の “Pearl”(2)

先週末、横浜野毛の〈DOLPHY〉でもよおされたジャズコンサートを聴きにいった。 同店を訪れるのは今年7月につづいて二度め。こんどもドラ娘が帰省ついでに発案したものだ。当夜の出演者はみんな初耳だったけど、前頭葉で炸裂する音の饗宴に完全にノックアウ…

Michel Houellebecq の “Submission”(1)

きのう、フランスのベストセラー作家 Michel Houellebecq(1956 - )の "Submission"(原作・英訳2015)を読了。Wiki によると、仏語版が発売された1月7日、フランスの週刊風刺新聞シャルリー・エブド紙の本社にイスラム過激派テロリストが乱入、編集長そ…

Georgi Gospodinov の “Time Shelter”(2)

今年のブッカー賞最終候補作は、前回紹介した現地の人気ランキングをもとに、上位四作を注文した。デカ本らしい "The Bee Sting" と人気薄の "Western Lane" はパス。 四冊とも手元に届くのは来月になりそうなので、それまでのツナギに Michel Houellebecq …

Herman Diaz の “Trust”(2)

ロンドン時間で21日、今年のブッカー賞ショートリストが発表された。the Mookse and the Gripes における候補作の人気ランキングはつぎのとおり(4/5は集計方法のちがいによる)。1, Prophet Song by Paul Lynch2, Study for Obedience by Sarah Bernstein3,…

Siân Hughes の “Pearl”(1)

数日前、今年のブッカー賞一次候補作、Siân Hughes の "Pearl"(2023)を読みおえたのだけど、今回も諸般の事情でレビューをでっち上げるのが遅れてしまった。Siân Hughes はウェールズ出身の作家で、2009年に "The Missing" という詩集を発表しているが、小…

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(5)

Siân Hughes の "Pearl"(2023)を読んでいる。なかなかおもしろい。 手に取ったきっかけは、先月初め The Mookse and the Gripes のブッカー賞関連のスレッドで、イギリス人の文学ファン Paul Fulcher 氏のこんなコメントを目にしたからだ。Well I have rea…

Georgi Gospodinov の “Time Shelter”(1)

数日前、今年の国際ブッカー賞受賞作、Georgi Gospodinov の "Time Shelter"(2020, 英訳2022)を読みおえたのだけど、例によって散漫な読みかたが災いし、きょうまでなかなか感想をまとめる気にならなかった。Gospodinov はブルガリアの作家で、本書は彼の…

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(4)

前々回、「細部がよく書けている作品に駄作はほとんどありません」と大見得を切ったばかりなのに、あれま、"Trust"(2022)にはガッカリ。さすがに駄作とはいわないけれど、秀作になりそこねた水準作だった(☆☆☆★)。 一方、表題作はといえば☆☆☆★★。二冊同時…

Herman Diaz の “Trust”(1)

のどの痛みがだいぶ和らいできた。おかげで読書のペースも上がり、きのう、今年のピューリツァー賞受賞作、Herman Diaz(1973 - )の "Trust"(2022)をやっと読了。 Diaz は "In the Distance"(2017)でデビュー(未読)。それが2018年のピューリツァー賞…

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(3)

旅行前、もう二週間近く前からのどが少し痛く、きのうの午後には微熱も。きょう桔梗湯を処方してもらったが、かかりつけの先生によると、一日ぶん三袋とも小さな魔法瓶(小型ペットボトル)にいれて水または白湯で溶かし、よく混ぜたものを少しずつ、うがい…

Barbara Kingsolver の “Demon Copperhead”(2)

行きはよいよい、帰りはこわい。ゆうべ、やっとのことで九州・四国旅行から帰ってきた。 羽田発博多行きの飛行機に乗ったのが10日。台風6号の影響で条件つき飛行ということだったが、ぶじ着陸。博多市内の有名ラーメン店に直行し、長蛇の列にならんで待って…

Ruth Ozeki の “The Book of Form & Emptiness”(6)

前回(5)からずいぶん間があいてしまった。簡単におさらいをしておこう。日系アメリカ人の少年 Benny は父親 Kenji の死後、いろいろな「ものの声」が聴こえるようになり、ある夜、図書館の製本室で the Book にこう告げられる。... you encountered all t…