宮仕えの身だと、思うように本を読めないのがつらい。この連休中も結局、家で仕事ばかりしていた。というわけで、これは昔話。かなり旧聞に属するが、さる7月9日、Christian Book Award の本年度受賞作が発表され、Karen Kingsbury の "Ever After" が大賞に選ばれた。http://www.ecpa.org/christianbookawards/winners2007.php
日本ではほとんど知られていない賞だと思うが、the Evangelical Christian Publishers Association という団体が78年に設立したもので、毎年、キリスト教関連の優秀な作品に与えられ、過去の受賞作家を見ると、かの Francine Rivers の名前もある。
ぼくはキングズベリーの受賞作は未読だが、候補作の一つだった Charles Martin の "When Crickets Cry" にはかなり感心し、夏休みにアマゾンにレビューを投稿した。(その後、削除)
- 作者: Charles Martin
- 出版社/メーカー: Thomas Nelson Inc
- 発売日: 2006/03/07
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……この賞の小説部門賞を受賞した本書だが、これがなぜ候補作になったかというと、うろ憶えだが、たしか神の恩寵にかかわる話が何度も出てきたような気がする。が、それほど宗教的な小説ではなく、ぼくも候補作に選ばれる前から、別の興味があって入手していた。それは、この作品がぼくの好きな「レイクサイド・サーガ」の一つだからだ。
「レイクサイド・サーガ」とはぼくの造語で、要は映画『黄昏』のような物語のこと。といっても、ローレンス・オリヴィエが出るほうではなく、ヘンリー・フォンダとキャサリン・ヘップバーンが共演したほうだ。レイクサイド・サーガの説明については、昔、アマゾンに投稿(その後、削除)した次のレビューを引用しておこう。
- 作者: Justin Cronin
- 出版社/メーカー: Dial Press Trade Paperback
- 発売日: 2005/05/31
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……チャールズ・マーティンの作品に話を戻すと、これは妻を亡くした男の物語だし、死んだ妻も回想シーンに登場するだけなので、厳密にはファミリー・サーガとは言えないが、それでも湖が出てくるので無理やりレイクサイド・サーガに含めておこう。コオロギの鳴き声が聞こえる湖畔の家に一人住む男。ミーハーのぼくは、こんな設定だけですっかり参ってしまった。幼なじみだった妻は心臓病患者で、少年時代の昔、彼女の心臓が悪いと知った主人公は、その心臓を治そうと医者になることを決意する。男はやがて名医として慕われるが、治療の甲斐なく妻は死亡、湖のほとりで隠遁生活を送っていたところへ、同じく心臓を患う少女が現われ…
と、こんな粗筋を書いていても、二ヵ月前に読んだときの熱い感動がよみがえってくる。しかし、たぶん邦訳は出ないだろう。日本では海外の文芸小説は、映画化された作品か、メジャーな賞の受賞作や候補作ぐらいしか翻訳されない。ぼくもブッカー賞関連のレビューを書いているので大きなことは言えないが、あちらの「埋もれた」秀作佳品に出会うたびに、ひるがえって日本のお寒い出版事情にはがっかりさせられる。
がっかりついでにもう一つ、やはり隠れたレイクサイド・サーガの秀作について書いておこう。といっても、これも昔のレビューだ。
By the Lake (Vintage International)
- 作者: John McGahern
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 2003/04/08
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…これは一昨年、ガーディアン紙で1980年から2005年までの25年間の優秀作品が選出されたとき、第8位にランクインしている。http://observer.guardian.co.uk/print/0,,329595606-102280,00.html しかし、その程度では翻訳が出ないのが日本の現状なのだ。こんなにいい小説が売れない、読まれないのは本当に残念だ。