この連休中も仕事に追われたが、その合間にようやく Ivan Doig の "The Whistling Season" を読みおえた。
- 作者: Ivan Doig
- 出版社/メーカー: Mariner Books
- 発売日: 2007/05/07
- メディア: ペーパーバック
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…アイヴァン・ドイグは昔から注目している作家だが、実際に読むのはこれが初めてだ。本来なら "This House of Sky" をまず手に取るべきだろうが、本書ともども長らく積ん読状態。どうせなら今年のアレックス賞を受賞した最新作のほうから、この「モンタナ専属作家」の世界にふれようと思った次第だ。
ドイグの著作リスト http://en.wikipedia.org/wiki/Ivan_Doig を眺めると、そのほとんどがモンタナ州を舞台にしたもので、特に東部の批評家からは「地方作家」とのレッテルを貼られ、二流視されているようだが、ローカル・ピースの好きなぼくはむしろ大歓迎。たしかに本書に関するかぎり、人生の深い問題を扱った作品ではないし、文学的な冒険が行われているわけでもないが、ぼくが小説に求めるものはいろいろな要素があり、いつも知的興奮を味わおうと思って読んでいるのではない。これはヒーリング系の情的快感を与えてくれる本だ。
成人した長男が半世紀後、昔住んでいた家を訪れ、子供時代を回想する形式で、粗暴な少年や生意気な女の子と対立したり、嫌な先生に反発したり、逆に、肌の合う先生に出会って勉強の楽しさに気づいたりと、誰しも身に覚えがあるような経験が面白おかしく、かつノスタルジックに綴られる。定番の話だが、共感を呼ぶ主題に則り説得力のある展開を見せている点で、ドイグの小説作りは誠実そのもの、まさしく職人芸である。
とりわけ印象深いのは、主人公が校庭に立ちつくし、流れる時間、過ぎゆく人生の中で一つの定点として少年時代を実感している場面だ。ぼくにもそんな瞬間があった。夕陽を浴びながら、公園の滑り台だったかの上で茫然と周囲の景色に見入った憶えがある。そういう思い出をよみがえらせる力が、ここには確かにある。
その力は結局、学力テストの話や、教師と頑迷な父兄との衝突事件などからも分かるように、ドイグが子供の世界を普遍的に再現していればこそ生まれてくるものだ。それを70歳近い老人がやってのけている点がすごい。マイナーといえばマイナーな作品だが、大草原の小さな町から普遍的な子供の物語をつむぎ出すのは決してマイナーな仕事ではない。さすがはアレックス賞受賞作と拍手を送りたい。