相変わらず「自宅残業」の毎日なので、今日も昔のレビューをだしに日記を書くことにした。
- 作者: Thomas Mann,John E. Woods
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 1999/07/27
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…このところ、柄にもなく「戦争と人間」という深刻なテーマを採りあげてきたが、戦争が国家の行為である以上、どうしても戦争と国家の関係について触れざるをえない。この問題に関連してぼくの頭に浮かんだのがトーマス・マンである。
日本では一般に、人々が「戦争に巻きこまれる」とか「国の犠牲になる」という言い方をして、国民を戦争や国家と対峙するものとして捉えがちだが、ぼくはその「常識」にかなり疑問をもっている。個人的な喧嘩でもお互いの性格や過去の経緯がからんでいるように、人間の集合体としての国家が戦争をおこなうとき、そこには、単なる時の為政者や国民の意思を超えた歴史的必然性があるのかもしれない。
ぼくがそう思うようになったのは、『魔の山』を読んだのがきっかけだ。高校、大学時代に邦訳で接したときは何が何だか分からなかったが、その後、新潮社版の全集で『非政治的人間の考察』をメモを取りながら熟読。それからまた年月を経て Vintage 版の英訳で『魔の山』を読んだとき、ようやくトーマス・マンの意図を理解できたような気がした。
The Magic Mountain (Vintage International)
- 作者: Thomas Mann
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 1996/10/01
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で、『ファウストゥス博士』だが、これまた国家や民族の運命を体現した人物が主人公となっている。高名な作曲家の伝記という体裁を取りながら、実際は第三帝国の台頭に翻弄されるドイツ近代の宿命がテーマで、ぼくはこれを読んでいるとき、"My Country Right or Left" というオーウェルのエッセイの題名が頭にちらついてならなかった。ナチズム発生の原因を祖国の精神文化に求めるのは祖国を愛すればこそであり、亡命先で本書を執筆中のマンは断腸の思いだったに相違ない。
言い換えれば、戦争が国家や為政者の独断専行によるものという認識は、第二次大戦に関してさえトーマス・マンにはない。大作の中で終始一貫、国民の精神史を描き、戦争という悲劇に民族の歴史や文化的な背景、要するに歴史的必然性を読みとっている点で、彼ほど「国民作家」の名にふさわしい作家もいなかったのではないか。同じ敗戦国でも、文学者の立場にはずいぶん彼我の差があるものだ。
なお、上のレビューにも書いたが、マンの長編で一番とっつきやすいのは『ブッデンブローク家の人々』だ。北杜夫の『楡家の人びと』のモデルとしても有名だが、時代精神の反映という点でやはり本家のほうが上回る。が、ぼくのように理屈をこねなくても、単純に面白い読み物としても優れている。Vintage 版の英訳もかなり読みやすかった記憶がある。
Buddenbrooks: The Decline of a Family (Vintage International)
- 作者: Thomas Mann
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 1994/06/28
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