Maggie O'Farrell の "The Vanishing Act of Esme Lennox" に続き、ペイパーバックで読める昨年の年間ベスト作品を探した結果、今度は "Publishers Weekly" 誌が選んだリストの中から、Andrew O'Hagan の "Be Near Me" を読んでみた。 http://www.publishersweekly.com/article/CA6496987.html
- 作者: Andrew O'Hagan
- 出版社/メーカー: Faber & Faber
- 発売日: 2007/04/05
- メディア: ペーパーバック
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…本書は一昨年のブッカー賞のロングリストにも選ばれた作品で、英アマゾンでは文芸部門のロングセラーとなっている。アンドルー・オヘイガンは99年にも "Our Fathers" が同賞の最終候補作に選ばれているが、不勉強のぼくは未読。本書も上のリストを目にしなければ積ん読のままだったろう。
これは正直言って、途中まであまり乗らなかった。なぜ神父が不良少年の危うい行動を黙認するのか、今ひとつ納得できなかったからだ。中盤で事件が起こり、やがて青春時代の回想が始まったところでその疑問は氷解するものの、勘の鈍いぼくとしては、もう少し伏線を張るなり回想を早めるなり、「構造計算」を正確にしてくれないとストレスがたまり過ぎる。本書がショートリストから洩れたのも、一つにはその辺が災いしているのかもしれない。
ぼくの疑問は実は、この本のテーマにもかかわっている。つまり回想と前後の物語をつき合わせ、神父が自分の良心に忠実であろうとして挫折するという展開を経て初めて、「禁断の愛」という主題がうかびあがるのだが、これが隠し絵のように描かれているため、いささか焦点が絞り切れていない。読後に深い余韻は残るのだが、どうもすっきりしないのも、アンハッピー・エンディングのせいばかりではなく、愛の実体をつかみにくいことにもよる。その点、癌にかかった家政婦と神父のふれあいが終始一貫、静かな感動を呼ぶのとは対照的である。
何だかずいぶんケチをつけてしまったが、含蓄に富んだ会話や繊細この上ない心理描写は実に読みごたえがあり、文学史をまともに勉強したことのないぼくが言うのもおこがましいが、オヘイガンは英国小説の伝統をしっかり受け継いでいる作家だと思う。後半の快調な物語性も実力の片鱗をうかがわせる。今後の飛躍を大いに期待したい。