アレックス賞の新しい受賞作の中でペイパーバック版を見つけたのでさっそく読んでみた。Ishamael Beah の "A Long Way Gone" である。

A Long Way Gone: The True Story of a Child Soldier
- 作者: Ishmael Beah
- 出版社/メーカー: HarperPerennial
- 発売日: 2008/01/01
- メディア: ペーパーバック
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…小説オタクのぼくはノンフィクションなるものをほとんど読んだことがない。この前読んだノンフィクションといえば、かなり昔、某社の依頼でレジュメを書いたポル・ポトに関するもので、題名も忘れてしまったくらいだが、何の予備知識もなく取りかかった本書が同じく戦争、虐殺の話だったとは驚きだ。
最初は小説以外のものを読むことにためらいがあったが、読了後の今は大いに満足している。理由はいくつかあるが、まずこれが物語形式だったこと。小説にしか目がないぼくには本当に助かった。書かれている内容は事実なのだ(と思う)が、こんな書き方だったら何の抵抗もない。普通の小説とほとんど変わらないからだ。
で、肝心の内容だが、上記のようにノンフィクションの出来不出来を判断する力のないぼくから見ても、これは非常に優れた作品だと思う。ここには人間に関する真実がはっきりと示されているからだ。Irene Nemirovsky の "Suite Francaise" について述べたことを繰り返すと、「人は極限状態に置かれたとき、何ができるのか。何をすべきなのか。どんな行動に走るのか」。この問いに対する答えの一つが本書にはある。つまり「ぼくのルールは、殺すか殺されるかだった」という言葉である。
ネミロフスキーのところでも書いたことだが、ネットで検索すると某図書館では「戦争文学ベスト30」を発表している。ここでその副館長の言葉を引用しておこう。「だいたい、戦争とか平和とか言うものを論じるときには、大きな2つの考え方の流れがあるのではないか、と私は思う。ひとつは『生命を捨てる価値のあるものがある』という考え方、もうひとつは『人の命ほど大切なものはない』という考え方だ。戦争という極限状態のなかで、人々はこの2つの大きな考え方の狭間で悩むことになる。その悩みのなかで、多くの文学作品が生まれた」。
ぼくはこれを読んだとき、かなり疑問に思った。実際「戦争という極限状態」に置かれたら、そんな「狭間で悩む」余裕なんぞあるのだろうか。それより、多くの人間は生存本能に走り、知性や良心をかなぐり捨て、醜いエゴをむき出しにするのではないか、とネミロフスキーの小説のほうに共感を覚えたものだが、今回イシュマエル・ベアの本を読み、いざとなったら「殺すか殺されるか」しかない、それが戦争だと改めて実感している。
ネミロフスキーの話に引き続き、ぼくはコンラッドの『ロード・ジム』を採りあげてこう書いた。「戦争を始めとする極限状況に陥ったとき、人にできることは限られている。百パーセント完全な解決法などありえない。それどころか、後で後悔する選択肢を強いられることも多々あるのではないか。自分の答えが正解ではないと知りつつ、あえてその決断に踏み切らざるを得ない場合もあろう」。
これと同じようなことをイシュマエル・ベアは本書の最後で述べているが、長くなったのでこの続きはまた後日。