ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jim Lynch の "The Highest Tide"

 多忙につき、今日も昔のレビュー。Jim Lynch の "The Highest Tide" だ。

The Highest Tide

The Highest Tide

[☆☆☆★★★] 少年少女の成長には夏休みが必要だ、ということを改めて思い知らせてくれる青春小説の佳作。自由な時間が与えられ、好きなことに熱中。悪ガキ仲間と遊びまわり、ほのかな恋心を燃やし、大人の世界にちょっとふれ、人生の真実をかいま見る。そんな本書のエピソードを読んでいると、大なり小なり似たような経験を思い出し、心はつい、あの夏の日に戻ってしまう。よくあるパターンだが、定型を感じさせない設定の妙が光る。主人公はレイチェル・カーソンに夢中の不眠症に悩む少年だ。この少年が夏休み、月夜の浜辺でダイオウイカをはじめ、不思議な海の生物を次々に発見する。それがときにファンタジーといってもいいほど詩的幻想的な高まりを見せる一方、エコロジーや環境問題という現実を下敷きにしているのがうまい。そこへ前述のとおり、親の不仲にショックを受けたり、異性の話で盛りあがったりと思春期ならではの逸話が混じり、とにかく変化に富んだ展開である。環境の異変を告げるお祭り騒ぎはいささか作りすぎの感もあるが、少年がちょっぴり身長を伸ばし、大人に近づいたことを素直に歓迎したい。英語は馴染みの薄い生物名などを除けば、標準的なものだと思う。

 …Sara Gruen の "Water for Elephants" と同じく、これも少年が主人公で肩の凝らない小説。アレックス賞には選ばれなかったが、米アマゾンのいろんなリストマニアが採りあげている。洋書オタクとしては、知らない作家のハードカバーを勘で注文するのが本道だろうが、財政的にゆとりのない現状では、あちらのリストマニアに頼ってペイパーバックを買うのも一つの方法で、外れもあるが当たりも多い。これは大当たり。
 エコロジーを扱った作品といえば、ぼくは Barbara Kingsolver の "The Prodigal Summer" に強い衝撃を受けたものだが、http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071115/p1 本書はあれほどの深みはない。が、理屈ぬきに楽しめる本であり、近く映画化されるそうだから、それを機に翻訳が出れば日本でも売れるのではないだろうか。