ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

ぼくの年間ベスト3と Khaled Hosseini の "A Thousand Splendid Suns"

 このところずっと英米のメディアが選んだ年間優秀作品をペイパーバックで読んでいるが、このへんで僕が去年読んだ本の中からベスト3を挙げておこう。
1.

(詳細は昨年11月22日の日記 http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071122/p1
2.(詳細は昨年11月29日の日記 http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071129/p1
3.[☆☆☆☆] 一心不乱に読みふけった。途中何度も胸をえぐられ、息が詰まりそうになった。傑作である。なにより感動的なのは、戦乱のつづく激動のアフガニスタンを舞台に、女性たちが想像を絶する困難に遭いながらも、不屈の意志で愛する人びとと共に生き、人びとのために生きようとする真剣な姿である。私生児として生まれた娘と、両親を戦災でうしなった娘の身の上に、つぎつぎと降りかかる不幸。男性優位の伝統がもたらす理不尽な忍従、そして戦争の悲劇。だが、これは断じて社会小説でも政治小説でもない。社会体制や男たちの正義がどうであれ、女性には母として娘として、妻として女として、愛する者と暮らす日々の生活がある。そのごくふつうの幸福が、じつはいかにすばらしいものであるかを本書はあらためて教えてくれる。ふたりの娘が結婚し、やがて子どもが生まれる過程でしいられる別離の悲しさや、運命に翻弄され、悪意や偏見による障害を乗りこえようとするけなげさは筆舌に尽くしがたい。政治情勢の解釈に不満をいだいたり、結末で示される希望に甘さを感じたりする読者もいるかもしれないが、その希望の裏には大きな犠牲と喪失の歴史があることを思うと、立場の違いを越えて絶句せざるをえないだろう。

 …これも昔のレビュー。予約注文して入手、発売後たしか5日目くらいにアマゾンに投稿したものだが、今読み返すとホメホメおじさんもいいところで恥ずかしい。
 本書は「タイム」誌や米アマゾンなどでも年間ベスト10に選ばれている。ぼくも入れこんでレビューを書いたくらいだし、その評価を訂正するつもりはないので上に再録したが、ネミロフスキーやアディーチェの作品と同格かというとそうではない。たしかに面白い、いや非常に面白くて大いに感動的な秀作なのだが、その感動は、ネミロフスキーのような悲劇的人間観がもたらす衝撃とは異なっている。作者が提示した問題の大きさ、深さに圧倒されるたぐいの本ではない。あくまでも女性の立場から戦争を描いた作品なので仕方がないのかもしれないが、「男たち」はなぜ「正義」にこだわるのか、女も同じ人間として正義に関心はないのか、という点が気になる。その点に実は戦乱の続く原因があるのだが、ホッセイニは悲劇を生みだす原因よりもむしろ、悲劇を乗りこえて生きるという結果のほうに的を絞っている。だからこそ感動的だし、皮肉な言い方をすれば売れ筋になるわけだ。一方、ネミロフスキーやアディーチェの作品では、神ならぬ不完全な存在としての人間の姿に慄然とさせられる。ネクラなぼくは、そういう悲劇のほうに心を惹かれるのだ。とはいえ、決してホッセイニの作品にケチをつけるつもりはない。それどころか、無我夢中で読みふけったという意味では、これがむしろベストワンかもしれない。