昨年の全米図書賞最終候補作、Mischa Berlinski の "Fieldwork" がペイパーバック版で出ているので読んでみた。
- 作者: Mischa Berlinski
- 出版社/メーカー: Picador
- 発売日: 2008/01/22
- メディア: ペーパーバック
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…前にも書いたように、ぼくは全米図書賞にはどうも食指が動かず、このところ受賞作を読んでいない。04年の "The News from Paraguay" に大いに失望したのも一因だが、William T.Vollmann, Richard Powers, Denis Johnson という最近受賞した顔ぶれを見ると、全米図書賞の趣旨は既成作家の顕彰かと邪推したくなる。その点、本書はこの作家のデビュー作だし、"Publishers Weekly" でも年間優秀作に選ばれているので少し期待して取りかかった。
この小説は、中間部分をどう評価するかによって毀誉褒貶相半ばすると思う。ぼくは正直言って少々退屈したが、中国雲南省からビルマ、タイへと布教活動を続けた宣教師一家の物語や、女性がタイの寒村で人類学の現地調査にあたった記録などは、物珍しさも手伝って面白いと言えば面白い。が、それは人物関係や心理の動きといった小説的な興味ではなく、たしかに感情的な対立や恋愛もからんでいるものの、本質的には事実、もしくは事実に近い材料の面白さが中心である。それゆえ、事実とフィクションを絶妙に配合している点がすばらしいという意見も当然あるだろう。
ともあれ、女人類学者はなぜ宣教師を殺害したのか、という核心部分はかなりうまく仕上がっている。稲作について細かい説明があり、いささか眠気を催していたところへ、何とその稲作で…という意外な展開。人類学調査の細部が殺人の動機に関係していたことが分かり、それまでの「脱線」も実は脱線ではなかったことになる。このあたり、新人作家らしからぬ巧みな筆さばきだが、皮肉な見方をすれば、最後はうまく決めてくれて当たり前。当初から本書の興味は、どんな答えが用意されているのだろうという点にあり、その期待に応えるのが作者の義務だからだ。
殺人の動機は、ネタをばらさない程度に解説すれば「ミイラ取りがミイラになる」ということだが、謎解きの見事な展開は別にして、ぼくは答えを聞いても特に感動しなかった。何か普遍的な訴えがあるわけではないからだが、途中に例えば Junot Diaz の "The Brief Wondrous Life of Oscar Wao" のような冒険物語があり、しかも本筋の伏線が張りめぐらされていれば、この程度の解決でも問題はなかっただろうと思う。今回も今ひとつ満足できなかった全米図書賞だが、そのうちまた他の候補作を読んでみることにしよう。