ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Andre Aciman の "Call Me by Your Name"

 このところ「自宅残業」と内職で大忙しだったが、寝る前に読みつづけていた Andre Aciman の "Call Me by Your Name" をやっと読了した。
 追記:本書は2018年に映画化され、アカデミー賞にノミネート。

CALL ME BY YOUR NAME

CALL ME BY YOUR NAME

  • 作者:Aciman, André
  • 発売日: 2008/01/22
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆★★] これはある一点を除けば平凡な小説かもしれない。イタリア・リヴィエラの海辺の町で少年が経験したひと夏の恋。ああまたか、と笑いたくなるほどお定まりの設定だが、じつは尋常ならざる要素がからんでいる。それは読者によっては拒否反応を示すものだろうが、その場合、あえてごくふつうの恋愛小説として読み進むにかぎる。見そめた相手へのあこがれ、激しい情熱、やがて関係を結んだあとの自己嫌悪と喜び……何度も繰り返される自問が示すように、多感な少年の揺れ動く心が鮮烈な感覚で綴られていく。一点を除けばといったが、どうして凡庸ならざる作品である。とりわけ、若いふたりが中年になって再会する後日談がいい。これほどの純情を持ちつづけることは現実にはない話かもしれない。そして最後にひと言、「きみの名前で呼んでくれ」。泣かせるせりふだ。ふつうの恋愛小説としても上出来の部類に入ると思う。では、「尋常ならざる要素」とはなにか。それは読んでからのお楽しみ、とだけいっておこう。

 …どこまでネタをばらしていいのか困ってしまう作品だ。ペイバーバックの裏表紙に載っている賛辞を読んでも、見事に核心部分を隠していることが分かる。ところが、本書を年間優秀作品に選んだ "Publishers Weekly" 誌の寸評は、形容詞一語でずばり内幕を暴露している。それがきっとあちらでは惹句なのだろうが、日本では逆効果かもしれないと保守的なぼくは考え、「読者によっては拒否反応を示すものかもしれない」「尋常ならざる要素」としか書かなかった。付け加えるなら、表紙の写真を見ただけでピンとくる読者もいることだろう。これ以上は書けない。
 問題は、その「異常な要素」をどう評価するかだ。「普通の恋愛小説としても上出来の部類に入る」ことは間違いない。ただ、みずみずしい感覚で綴られた恋愛心理、とりわけ、後日談で示される胸を締めつけられるような純情も含めて、それはやはり「お定まりの設定」と言わざるをえない。そのありふれた話を一気に非凡な作品たらしめているのが…「異常な要素」なのだ。
 核心部分の評価は好みによって分かれるかもしれないが、好みに関係のない話をすると、たしかに「異常」な世界ではあるのだが、それは人生に関する世間一般の常識をくつがえすような意味での「異常」さではない。現代作家の通弊とも言えるこの欠点に目をつぶれば、そして、「普通の恋愛小説」としての凡庸な設定にも目くじらを立てなければ、これはけっこう楽しめる作品である。ざっと検索したかぎり、まだ映画化の予定はないようだが、霊界のヴィスコンティかアントニオーニにでも監督を頼みたいところだ。主役はもちろん、両監督の作品に出演したころのアラン・ドロン
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