ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Mindy Friddle の "The Garden Angel"

 今年は今まで英米のメディアが選んだ昨年度の優秀作品や、メジャーな賞の候補作ばかり読んできたので、このへんで積ん読の山を切り崩さねばと、Mindy Friddle の "The Garden Angel" を読んでみた。

The Garden Angel

The Garden Angel

[☆☆★★★] 女性の自立が一応テーマだが、焦点が絞りきれず凡作に終わっている。舞台はサウス・カロライナ州の田舎町。昔は栄華を極めたものの、今や売却の話が出ている古屋敷に住む若い娘が主人公で、朝晩はホットケーキ屋で働き、昼は新聞社で死亡記事を書いている。売却に乗り気の兄妹との対立、隣人や同僚との交流、編集長との恋物語などが娘の一人称で語られる。一方、妹は大学の指導教授と関係して妊娠。夫の浮気を知った教授の妻が娘の家に押しかけてくるのを皮切りに、妻の立場から二人のなれそめや結婚生活、流産して神経過敏になった経緯などが三人称で綴られる。ユーモラスな場面や心温まる話もあり、一つ一つのエピソードはそれなりに面白いのだが、散発的でパンチ不足。特に深い意味もない。恋に破れた娘と、夫に愛想を尽かした教授の妻が意気投合、一緒に新しい人生を歩みだす結末は大いによろしい。難易度の高い語彙も散見されるが、英語は総じて標準的。

 …これは2年前だったか、英米アマゾンのリストマニアをサーフィンしているうちに発見した作品で、Jim Lynch の "The Highest Tide" や Tom Perrotta の "Little Children" などと一緒に購入した憶えがある。両書はその後話題になり、ぼくも去年読んで大いに気に入ったが、(詳細は http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080131/p1 及び http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080312/p1)、本書だけ読み残していた。
 読んだ感想は上の通りで、ネット・サーフィンによる山勘の結果は、ジム・リンチとトム・ペロッタの作品とあわせると「2勝1敗」、今回は残念ながら大はずれだった。これと言って特色のない凡作で、向こうでも埋もれてしまっているのも無理はない。
 昨日はたまたま、『いつか晴れた日に』をDVDで観たのだが、同じ家庭騒動を扱った作品でも、ジェーン・オースティン原作の映画のほうがはるかに面白かった。オースティンの小説には長らく接していないが、映画から判断する限り、昔の家庭小説では、家庭における「コップの中の嵐」が、その家庭を含む社会や文化の矛盾を反映していたような気がする。ところが、現代の家庭小説では、あくまでも「コップの中の嵐」に終始している場合が多いのではないか。この "The Garden Angel" もいい例で、構成や話術にさほど工夫が見られないぶん、そういう欠点ばかり目についてしまった。