ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Karen Kingsbury の “Summer”

 Karen Kingsbury の "Summer" を読了。最後は涙が止まらなくなり、これが電車の中でなくて本当によかった。

Summer (Sunrise)

Summer (Sunrise)

[☆☆☆☆] 最大の喜びは最大の悲しみの中にある……読了後、ふと思いついた言葉だ。インディアナ州ブルーミントンの街を舞台に、信仰厚いバクスター家の人々が試練を乗り越えて生きる愛と救済の物語。シリーズ化されている作品の一つだが、何の予備知識がなくても充分楽しめる。そして最後には定石どおりとわかっていても大きな感動が待っている。ハリウッドスターの息子が新婚早々、パパラッチに悩まされ、新婦とのあいだが険悪になったり、新婦の属していた児童劇団が解散の憂き目にあったり、ビバリーヒルズ高校白書を思わせる若者の恋愛や妊娠の話が出てきたり、何やら類型的な小説のようだが、それぞれ山場や泣かせどころがあって目が離せない。一家の主人をはじめ、兄弟姉妹やその子供たち、友人など、数多くの人物を登場させて見事にさばく老練な筆致が光る。随所にさりげなく昔の試練が紹介されており、バクスター家の物語を最初から読んでいるファンへのサービスも怠りない。が、本書で何より感動的なのは、生まれてくる赤ん坊が無頭蓋症と診断されながら、奇跡を信じて出産に踏み切った娘夫婦の話である。神はなぜ、必ず死ぬとわかっている赤ん坊を授けたのか。救いはないのか。最後はとにかく涙なしには読めない。その根幹をなしているのは本質的には信仰だが、「最大の喜びは最大の悲しみの中にある」ことを思うと、信者でなくても深く心を揺り動かされずにはいられない。なお英語は標準的で読みやすい。

 調べてみるとキングズベリーは有名なキリスト教作家で、いろいろなシリーズを書いている。バクスター家の物語に限っても、まず Redemption Series 5冊、次いで Firstborn Series 5冊、そしてこの Sunrise Series の4作目が今年9月に刊行予定とか。しかも米アマゾンでは、どのシリーズの既刊も高い評価を受けているようだ。別シリーズの作品だが、昨年10月8日の日記にも書いたように、"Ever After"は去年、Christian Book Award の大賞に選ばれている。
 ぼくは同じ作家の作品を続けて読まない主義なので、"Sunrise" に取りかかるのは来年以降のことになりそうだが、向こうではこの「愛と救済の物語」シリーズにハマっている読者が多いだろうな、という気がする。家族の死や病気、事故など、過去に迎えた大きな試練への言及がいくつかあり、最初から読んでいる読者なら思わずにやっとするのではないか。
 つまりキングズベリーは、シリーズであることを意識しながら書いているわけだが、本書は単独の作品としてもよく出来ている。ほかの作品もきっとそうだろう。少なくとも、ここにはそう思わせるだけの感動がある。
 その感動は「本質的には信仰」から得られるものだが、ぼくのように「信者でなくても深く心を揺り動かされずにはいられない」のだから、信者が読めばなおさら相当なインパクトがあるだろうと想像できる。そういう宗教的な感動を提供し続けているのがキングスベリーであり、そんな作家を読み続けている多数の読者がアメリカの中にいる。これまた想像にすぎないが、たぶん事実だろう。してみると、Willam P. Young の "The Shack" を読んで感じたように、ひょっとしたら、「ピルグリム・ファーザーズの時代以来、アメリカは宗教国家であり続け、今日も国民の間にキリスト教が根強く浸透している」のかもしれない。
 むろん、キングスベリーは、弁神論など文学的に深い主題を追求するタイプの作家ではない。その意味では通俗的であり、「類型的」とも言える。だからぼくは途中、いささか斜に構えて読んでいたのだが、難病物の定石を踏んでいるとはいえ、赤ん坊誕生のくだりに至り、どうしても「涙が止まらなくな」った。「最大の喜びは最大の悲しみの中にある」。そのことに純粋に胸を打たれたのだ。
 本書がこれだけすばらしい出来なのだから、1作目の "Sunrise" もきっと秀作にちがいない。いずれ落ちこんだときにでも読んでみよう。「宗教的な感動」もさることながら、そんな誘惑に駆られるところにどうやらキングズベリー人気の秘密がありそうだ。