ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Helen Cross の "My Summer of Love"

 Helen Cross の "My Summer of Love" を読了。「夏シリーズ」第4弾だが、今回はいささか期待はずれだった。

My Summer of Love

My Summer of Love

[☆☆☆] 題名から連想するほど通俗的ではないがパンチ不足。ヨークシャーの小さな町を舞台に、15歳の少女が飲酒、窃盗、レズ行為などの非行をくりかえす。スロットマシンが大好きで、写真のモデルになったり、ドッグレースで大損したり、とにかく活発な娘だが、その自由奔放な行動の裏には、母親を亡くしたあとの孤独を紛らわそうとする欲求や、お仕着せの人生を歩みたくないという自立心、はたまた外見へのコンプレックスなど、いろいろな動機が読みとれる。その混乱ぶりはいかにも若い娘のものらしいが、反面、強烈なテーマを欠く結果ともなっており、主人公の青春に共感を覚えることができない。少女はレズ行為に耽るものの、どこか醒めていて、終幕における暴走も相手の娘に裏切られた逆上の末とは思えない。失踪した友人の話にしても、その事件で本当に傷ついているのか、単に不安がっているだけなのか。無軌道な行動が多いわりに、ひと夏を鮮やかに象徴する事件がないのが減点材料。口語俗語とりまぜ、語彙レヴェルはやや高い。

 …映画化されているとは知らずに読みはじめた。日本では未公開のようだが、たしかにレズ行為をはじめ、淫行暴行など絵になる場面が多く、その意味ではドラマティックで面白い。が、青春風俗小説とでもいうのか、若者の生態は活写されているものの、主人公が自暴自棄におちいる原因が今ひとつ定かではない。孤独感にしろ絶望にしろ、そういう動機をとことん描いてこそ、優れた青春小説たりうるのではないだろうか。
 スロットマシン好きの娘が主人公ということで、ブルック・シールズ主演の『ピンボールの青春』を思い出したが、昔BSで観ただけなのに、あちらのほうがよほど強烈だった。数々のピンボール名人との対戦に、少女の青春が見事に凝縮されていたからだ。それに較べ、本書には「ひと夏を鮮やかに象徴する事件がない」。「禁断の恋」を描いた夏物語としても、Andre Aciman の "Call Me by Your Name" のほうが数段上である。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080331/p1
   わが夏をあこがれのみが駆け去れり麦藁帽子被りて眠る
 寺山修司の名歌だが、ぼくはその小説版が読みたい。主題もおもむきも異なるが、"Call Me by Your Name" は、寺山の歌と同じく青春のインパクトを感じさせる秀作である。