ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2008年ブッカー賞のロングリストと John Berger の "To the Wedding"

 昨日、今年のブッカー賞のロングリストが発表された。http://www.themanbookerprize.com/news/stories/1105久しぶりに超大物 Salman Rushdie の名前も見えるが、ぼくがほかに知っている作家は John Berger くらい。例によって日頃の不勉強ぶりを痛感した次第だ。Berger の旧作はレビューを書いたことがあるので、今日はそれを再録しておく。

To the Wedding (Vintage International)

To the Wedding (Vintage International)

[☆☆☆★★] 慧眼な読者ならすぐにピンとくるかもしれないが、勘の鈍い評者には最初、何の話かよく分からなかった。アテネに住む盲目の行商人のところへ、結婚を間近に控えた娘のために、ある男が護符を買い求めにやってくる。行商人の耳には、すべての音と声が聞こえ、その心にはすべての場面が浮かぶ。娘の現在と過去。イタリアで行われる結婚式に出ようと、フランスからオートバイでひた走る父親の現在と過去。同じく結婚式の支度で忙しい、チェコで暮らしている母親の現在と過去。そうした時間と場所が目まぐるしくフラッシュバックされるため、いささか脈絡に欠ける印象を受ける。しかし、3分の1ほど読み進んだあたりで、衝撃的な事実が明かされる。そこで最初から読み返してみると、なるほど、そういうことだったのかと合点し、あとは一気呵成に完読したという次第。たぶんバージャーは、直線的な時間進行では感傷的になりすぎると判断した結果、フラッシュバックの技法を採用したのだろう。実は、これはこの上なく悲しい愛の物語なのだ。子を思う親の愛。相手を気づかう男と女の愛。圧巻は、喜びと哀しみが入り混じった結婚式の場面で、その昇華された愛には胸を打たれずにはいられない。感傷を排した結果、英語も平明で簡潔な文体だ。

 …ブッカー賞に話を戻すと、日本のアマゾンでざっと検索したところ、ペイパーバックになっている作品はまだほとんどなく、せいぜい Salman Rushdie の "The Enchantress of Florence" ぐらい(しかも安くない)。今年はどうやら、受賞作を発表後に読むことになりそうだ。
 ちなみに、恒例の賭け屋の予想では、1番人気は Joseph O'Neill の "Netherland" で、ラシュディの作品は2番人気とか。http://www.themanbookerprize.com/news/stories/1108 物語性の強い作品や有名作家のものほど人気が高くなるようだが、この予想が当てにならないことは去年も一昨年も証明済み。去年受賞した Anne Enright の "The Gathering" など、選考委員があえて賭け屋の裏をかいたのでは、と思えるほどの凡作だった。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20070912/p1