ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Barbara Pym の "Quartet in Autumn"

 9月に入ってにわかに多忙を極め、なかなか落ち着いて本が読めなくなった。今年のブッカー賞のショートリストに残った Steve Toltz の "A Fraction of the Whole" もまだ終わらない。もっとも、これは途中で飽きてしまったことも原因なのだが…。
 というわけで、今日は例によって昔のレビューでお茶を濁すことにした。「秋、ブラームス」と題してアマゾンに投稿し、その後削除したものだ。

Quartet in Autumn

Quartet in Autumn

[☆☆☆★★] ブラームス弦楽四重奏曲は、モーツァルトベートーヴェンのそれと違って、評者のような音痴にはどうも主題がつかみにくい。同様に、本書も途中までテーマが分からなかった。題名どおり、登場するのは人生の秋を迎えた4人の初老の男女。いずれも身寄りがなく、会社の同僚で定年が近い。この4人の関係、それぞれの立場は基本的にほぼ同じだ。同僚だが友人ではなく、頑固で自己中心的だが孤独を感じている。むろん、微妙な性格の差はあるのだが、その差ゆえにお互いに相容れない点では一致。そんな4人のすれ違いに、身につまされる読者も多いのではないか。物語が動きだすのは女2人が退職してからで、この2人が第1、第2ヴァイオリニストさながら、老人ゆえの孤立感、疎外感という主旋律を奏ではじめる。いや、そういう心情はむしろ通奏低音と言うべきで、本書のテーマは最後の一行にある。その一行から全体を振り返ってみると、いろいろな事件がすこぶる緻密な計算のもとに展開されていることに気づくはずだ。実は途中から、どんな結末になるのだろうと興味津々で読みつづけたのだが、なるほどうまい、と思わず小膝を叩いてしまった。英語はさして難解な語句も構文もないので、速読の練習にちょうどいいだろう。

 …これは1977年度のブッカー賞最終候補作。いかにも英国の小説らしい、いぶし銀のような渋い作品で、技巧的にも非常に優れている。昨今は "A Fraction of the Whole" もそうだが、スケールが大きくてドラマティックなものが多い。それはそれで面白いのだが、この "Quartet in Autumn" のような珠玉の小品にめったにお目にかかれなくなったのは寂しい。プロの職人らしい作家が少なくなったせいだろうか。