ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kent Haruf の "Eventide"(2)

 Kent Haruf の "Eventide" は心にしみる佳作なのだが、涙を飲んで減点材料を挙げると、まず長編としての骨格をなす主筋が弱い。前作 "Plainsong" では、高校教師の息子たちの「トム・ソーヤーとハックルベリー・フィンの冒険を連想させる」物語と、「女子高校生が妊娠してから出産するまでの紆余曲折」という二本の大きな柱があり、しかもそれがどちらも変化に富んだ推進力のあるものだった。ところが、この "Eventide" では話の流れが幾筋にも分散しているため、全体として強烈なインパクトに欠ける結果となっている。
 むろん、作者がいくつもの人生を同時に並行して描くことで、いわば短編集に近い長編を書こうとしていることは分かる。前と同じ人物を登場させながら、視点だけでなく構成までも一新することにより、シリーズ物にありがちなマンネリ化を防ぐねらいも読みとれる。
 だが、ここには「幸福な人間はほとんど一人も登場しない」。それは言い換えれば、大なり小なり似たような人物しか出てこない、ということでもある。「どの場面からも嘆きの声が聞こえてくる」のはいいのだが、いささか一本調子になってしまったのが残念。
 けれども、そこにはやはり「本物の悲哀がこもっている」。ぼくとしては、この点を大いに評価したい。今日はついケチをつけてしまったが、これはいわば重箱の隅をつつくようなもの。好きな女には、ただ「好きだよ」と言うだけでいい。次回は、とりわけ気に入った場面について書くことにしよう。