今月7日に出たばかりの Ron Rash の新刊 "Serena" は、米アマゾンではなかなか好評らしい。しかも同書のページには、作者のエッセーと顔写真まで載っている。"The World Made Straight" でアレックス賞を受賞した Rash は、メインストリームの作家としての道を着実に歩みはじめたようである。
- 作者: Ron Rash
- 出版社/メーカー: Ecco
- 発売日: 2008/10/01
- メディア: ハードカバー
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あえて注文をつければ、昨日も書いたように、「倫理の問題にかかわる素材を提供しておきながら、提示だけで終わってしまうこと」だけはやめてもらいたい。…などと東洋の片隅で、泡沫ブログの素人レビュアーが意見を述べてもまったく意味がないが、これはぼくにとっては、小説の評価基準にかかわる重要なポイントのひとつなのだ。
"The World Made Straight" には、南北戦争の際、北軍の兵士が一般市民を虐殺した事件が出てくる。では、奴隷を解放しようとする戦争で、なぜ虐殺が起きたのか。これほど重大な問題を素通りしてしまうとは、作家として本質的に何か欠けているのではないか、という気がしてならない。
つい最近、次の本の新刊ニュースがアマゾンから送られてきた。
Facing Unpleasant Facts: Narrative Essays (Complete Works of George Orwell)
- 作者: George Orwell,George Packer
- 出版社/メーカー: Houghton Mifflin Harcourt
- 発売日: 2008/10/13
- メディア: ハードカバー
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奴隷解放戦争とは、言い換えれば、人を自由にするために人を殺さねばならなかった、という「不都合な真実」を意味している。その戦争で虐殺が起きた原因には、どのような苦い真実が隠されているのだろうか。不勉強のぼくは最近、そういうテーマの小説に出くわしたことがない。
たしかメルヴィルの『マーディー』にそんな話が出てきたけれど…いや、今日はもうやめよう。今日どころか、いくら時間があっても足りない問題に首を突っこんでしまった。ぼくのように、重大な問題を入り口だけで粗雑に扱う「レビュアー」が、いちばん罪が重いかもしれない。
…ここまで書いたあと、"The World Made Straight" の巻頭を見たら、なんと『モウビィ・ディック』の引用が載っていた。「作家として本質的に何か欠けている」云々は訂正。Ron Rash の成長を見守ることにしよう。