ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alan Sillitoe の "The Loneliness of the Long Distance Runner"

 もっか猫の手も借りたいほど忙しく、中断している長編の代わりにせめて短編集でも読みたいところだが、ぼくは物覚えが悪く、最初のほうに読んだ短編がどんな作品だったか忘れてしまうことが多い。それゆえ、短編集のいい読者とは言えないが、シリトーの『長距離走者の孤独』は今でも憶えている話がいくつかある。

[☆☆☆★★★] 短編集を読みおえたあとで目次を見かえすと、これなんの話だっけ、ということがよくある。が、本書は内容をおぼえているものがけっこう多く、その意味でも水準を超えている。表題作はあまりにも有名だが、鬱屈した若者と、月なみな価値観しかもたぬ大人との対立はいまや青春小説の定番。「怒れる若者たち」が一世を風靡した当時はさておき、現代の若い読者には、いかほどの衝撃を与えることだろう。しかしながら、ガキ大将とその手下が成人したのちに再会する最終話『フランキー・ブラーの没落』は、情感あふれるみごとな仕上がりで、文句なしに星4つ以上。そのガキ大将の胸のうちを思いやるとき、そこに静かな怒りを感じるひともいるかもしれない。
 
 例によって、昔アマゾンに投稿し、その後削除したレビュー。今どきシリトーなんて、英文科の学生でも読みそうにない気がするけれど、最後の "The Decline and Fall of Frankie Buller" は本当によかった。感動のあまり、本書の短編がぜんぶ再録された "New and Collected Stories" も買い求めたが、ずっと積ん読。600ページを超える大冊なので、老後の楽しみにするしかないと諦めている。