ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

今年の全米書評家(批評家)協会賞と、 Elizabeth Strout の “Abide with Me”

 いささか旧聞に属するが、全米書評家協会賞(全米批評家協会賞)の候補作が発表されている。http://bookcritics.org/news/archive/2008_nbcc_finalists_announced/ ラインナップは次のとおり。
  "2666" Roberto Bolano
  "Home" Marilynne Robinson
  "The Lazarus Project" Aleksandar Hemon
  "The Ballad of Trenchmouth Taggart" M. Glenn Taylor
  "Olive Kittredge" Elizabeth Strout
 ぼくはどれも未読だが、"2666" が栄冠に輝くことはまず間違いないだろう。ただ、何しろ900ページを超える超大作なので時間がないと取り組めない。せっかくペイパーバックが出ているのに相変わらず注文しないでいる。(その後読破。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20090305
 名作 "Gilead" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080224 の作者 Marilynne Robinson が全米図書賞に続いてノミネートされたのはうれしいが、こちらはまだハードカバーしか出ていない。
 意外だったのは Elizabeth Strout。ぼくは "Abide with Me" しか読んだことがないが、Marilynne Robinson と同じく心温まる筆致ながら、かなり地味な印象があり、こんなメジャーな賞にノミネートされる作家だとは知らなかった。以下は何年か前、「悲しみを超えて」と題してアマゾンに投稿、その後削除したレビュー。

Abide with Me: A Novel

Abide with Me: A Novel

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[☆☆☆★] 慈愛に満ちた心温まる終幕がかなりいい。舞台はニューイングランドの田舎町。主人公は幼いふたりの娘をかかえた牧師。妻はいない。その理由はすぐに察しがつくのだが、しばらく明示されないまま、教会や娘の通う幼稚園でのできごとを通じて、周囲の人びととの交流と微妙な心のゆれ動きが、抑制された静かな筆致で淡々と綴られていく。このあたり、やや焦点がしぼり切られていないが、妻の身に起きた事件が明らかにされると物語の骨格も見えてくる。誤解や中傷、対立の渦巻くなか、それぞれ心の奥に深い傷を秘めた人物が織りなす人生模様。とりわけ、悲哀や苦悩を希望とともに受け容れ、賛美歌『主よわれとともに』の題名どおり神の恩寵を待つ牧師の姿には、心打たれるものがある。抑制が効きすぎて説明不足だったり、逆に、いろいろなエピソードを盛りこみすぎたりしている点が気になるが、情感豊かな佳品であることはまちがいない。