ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"2666" Part 1 雑感(2)

 何とか第2部まで読み進んだ。第1分冊の3分の2だが、全体としてはやっと4分の1を超えたところ。まだまだ先は長いが、英語的にはけっこう簡単なので、時間のある人なら5日くらいで読み切れるのではないか。
 昨日の雑感で、本書は「普通のリアリズム」に支えられた「メロドラマのような気がする」と書いたけれど、第1部に関しては、あながち的外れでもないだろう。Benno von Archimboldi という謎のノーベル賞候補作家の行方を追って、3人の学者がメキシコシティー、さらにはアメリカとの国境にほど近いサンタテレサの街へおもむく。お目当ての作家には出会えないが、3人の関係は意外な結末?を迎える。その終幕がちょっとしたハードボイルド調でとてもいい。
 3人のうちイギリス人の女性講師が、イタリアに残っているもう一人の学者のことを思う。彼は身障者ゆえ作家探索の旅に加わらなかったのだが、女性講師の目には、その学者が自宅の窓から降りしきる雨を眺めている姿が映る。本書には、このように作中人物の想像した光景がいくつも出てくるのだが、ここは情感に満ちていて特に印象深い。
 この心象風景がひとつの伏線となって、第1部は終幕へ向かう。それまでシュールな夢の中の物語など、学者たちが新しい人物と出会い、話を聞くたびにダイグレッションの連続だったとも言えるのだが、雨のシーンからは違う。こと細かく描かれる主要人物の行動を通じて、それぞれの心理が間接的に浮かびあがってくるのだ。その様子は、妙な表現かもしれないが、「心がリリカルに匂い立つ」と言ってもいい。文体は異なるが、本質的にはヘミングウェイの『武器よさらば』の最終場面を思い出させるものがある。
 第1部からは、終わってみれば「心の彷徨」というテーマが読みとれると思う。謎の作家に惹かれた人物同士が出会い、愛とセックス、友情の物語が生まれ、作家の正体を突き止めようとするうちに自分の中で、またほかの相手に対して心が揺れ動く。
 …第2部にふれる時間がなくなった。今日はこの辺でおしまい。