いよいよ第2分冊に突入。"The Part about the Crimes" という章題のとおり、今まで読んだ範囲はおおむね犯罪記録の連続だ。昨日の雑感で、「Roberto Bolano は…ミステリも書けたのではないか」と述べたばかりだが、何のことはない、もう既に本書で実践していたことになる。
といっても、今のところパズルなりサスペンスなり、通常のミステリらしい要素は影が薄く、ドキュメンタリーやノンフィクションといった筆致で、メキシコのサンタテレサで起きた殺人事件の詳細が次々に描かれていく。被害者は身元不明の場合もあるが、明らかな事件では、売春婦、ウェイトレス、女工、貧しい家庭の娘など、社会の底辺に生きる女性ばかり。犯人が特定されることもあるが、ほとんどの場合は不明。手口は凄惨きわまりない。同一人物による犯行を匂わせるフシもあるが、定かではない。
以上が主筋で、教会の中で何者かが立て続けに放尿するという珍奇な事件が混じり、その事件を捜査する警部が精神病院の女院長に恋をする物語など、殺人以外の流れもいろいろある。読み進めば進むほど話が錯綜してきて目が離せない。
とまあ、けっこう楽しんでいるのだが、昨日も書いたように、「テーマはまだよく分からない」。けれども、ようやく全体の半分にさしかかるところなので、そろそろ目鼻をつけないといけない。
ひとつ確実に言えるのは、本書にはじつにさまざまな要素が渾然一体となって同居していることだ。恋愛小説、幻想小説、夢物語、ハードボイルド、スポーツ・ノンフィクション、クライム・ストーリー…思いつくままに挙げても目が回りそうだし、主役と端役が交わす会話や端役の回想なども含めれば、出てきた人物の数だけ種類の異なる物語があると言ってもいい。
文体も叙情的だったり即物的だったり、技法としては普通のリアリズムあり、マジック・リアリズムあり、大げさに言えば千変万化。ロベルト・ボラーニョは、人間の、人生の諸相をいろいろなアプローチで描き出そうとしているかに見える。
とはいえ、この第4部における大量殺人の意味するものがいずれ明らかになったとき、また新たな観点で本書を見直さないといけないかもしれない。第3分冊もあることだし、いやはや、とんでもない超大作に首を突っこんでしまったものだ。