思いのほか早く読了してしまった。昨日の雑感と同じような内容だが、さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 心の中に嵐が吹き荒れていた娘時代をふりかえる女性の回想を通じて、生きることの意味を実感させる佳作。亡き伯父の婚約者が経営する婦人服店に立ち寄ったのがきっかけで回想は始まる。秀逸なのは、そこに伯父自身の回想が加わることで、この二重構造を流れるような筆致で語り継ぐ話芸がじつに見事。主な舞台は70年代のロンドンだが、伯父も姪の両親も
ハンガリーからやって来た
ユダヤ系移民ということで、第二次大戦前の
ブダペストなどに話はさかのぼる。過去にいっさいふれたがらない両親に対し、伯父は家族の歴史を姪に披露。迫害、強制労働、異国の地での白眼視、偏見、そして投獄…そんな移民としての苦労話から、要は飽くなき生への執着が伝わってくる。姪の誕生パー
ティーや婚約した黒人女性との結婚準備などのお祭り騒ぎにも、逆境を乗りこえて生きる意欲の高まりが読みとれる。一方、姪のほうは新婚早々、夫に死なれて中絶、孤独な日々を送っている。セックスフレンドだけの青年との関係は、
どん底時代の青
春の嵐以外の何ものでもないが、不潔感はなく、むしろ心にしみる光景が多い。姪は伯父の回想に接することで自分の出自、家族の背景を知り、伯父の強烈な生き方に感化され、やがて立ち直るきっかけをつかむ。伯父の怒濤の人生と、自分自身の心の嵐。ふたつの回想を読みながら、過ぎ去った青春時代に思いを馳せる読者も多いことだろう。英語はごく標準的なもので読みやすい。