今もアマゾンUKのフィクション部門をチェックすると、本書はベストセラーリストの25位。去年の夏ごろからずっと100位以内をキープしている。昨日のレビューにも書いたように、圧倒的な物語のパワー、巧妙な伏線、見事な話芸、鮮やかな場面転換、魅惑的な舞台、そして感動的な愛のテーマなど本書には美点がいくつもあり、大人気を博しているのも当然の結果である。
今までこのブログで採りあげた「文芸ミステリ」の中で、家族や親子の秘密がテーマとなっているものは、Trezza Azzopardi の "Remember Me" や http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071222、Susan Fletcher の "Eve Green", Margaret Forster の "The Memory Box" などだが http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071221 、本書はそれらと比較しても出色の出来ばえだ。トレッツァ・アッツォパルディの本といい勝負で、同書の胸をかきむしられるような愛惜感も忘れられないが、物語性では本書のほうが圧倒的に上回る。
ほかにすぐれた点をあげると、ここで提示されている娘=老婦人の出生の秘密は、「解明に値する謎」、「解くことによって多少なりとも人生の真実が見えてくる謎」である。通常のミステリでは、たしかに読んでいる最中はとても面白いのに、いざ謎が解かれてみると、それがこっちの人生とどんな関係があるのかと思えることが多い。ところが、本書はアッツォパルディの作品と同様、読後も胸に迫ってくる。
その感動はもちろん、「子供を思う母親の愛、そして子が母を思う愛」が与えるものだが、老婦人と孫娘が秘密を解くことによって、それぞれ自分の姿を発見している点も見逃してはならない。過去が現在、そして未来につながる物語であるからこそ、爽やかな読後感が得られるのだ。
あえて重箱の隅をつつけば、人生の問題を深く追求した作品ではないし、登場人物も類型的と言える要素がある。しかし、これだけ楽しませてくれたのだから、野暮を言っては罰が当たる。ずっと積ん読にしている "The House at Rverton" も早く機会を見つけて読まなくては。