ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Still Alice" 雑感(2)

 あと少しのところまで漕ぎつけたが、明日はなんと大腸内視鏡検査。レビューは書けないかもしれないな。
 今のところ大筋は読み巧者ならずとも簡単に察しのつく展開で、この調子だと結末もタイトルからして予想どおりということになりそうだ。重箱の隅をつつくようだが、その意味ではいささか小説的な興味に欠ける面がある。
 なぜ予想が簡単かと言うと、本書のテーマからして、これ以外の展開はありえないからだ。つまりテーマとそれに関する知識を充分に理解し、それを完璧な計算のもとにフィクション化すれば必ずこんな作品に仕上がる。この観点からすれば、「いささか小説的な興味に欠ける」などというのは筋違いの注文で、本書は実のところ、非常に優れた小説ということになる。
 …何だか持って回ったような言い方だが、実はどこまでネタをばらしたらいいのか迷っている。ちょっと書きすぎただけで、あ、きっとこんな展開だろうな、と分かってしまうからだ。
 テーマくらいは暴露してもいいだろう。いわゆる「難病もの」である。この3年くらいのあいだに読んだ難病もので印象深かったのは、Charles Martin の "When Crickets Cry" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071008 と、Karen Kingsbury の "Summer" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080713/p1。この2作に共通して言えることは、どちらも難病を取り扱っているものの、途中までミステリアスな展開であったり("When Crickets Cry")、信仰小説だったり("Summer")、ほかの要素がけっこう混じっていた。さらに本質的なことを言えば、2冊とも患者以外の視点から描かれているため、家族や周囲の人間がいかに患者と接するか、という問題のほうに重心が置かれていた。
 ところが、この "Still Alice" では終始一貫、患者の立場に即して難病が扱われている。その不治の病に冒された人がいかに苦しみ、どんな症状を示し、家族がどんな犠牲を強いられるか、どんな事件が待ち受けているかが手に取るように分かる。ぼくもこれを読みながら、この病気に関して具体的な知識を得ることが多かった。
 つまり、本書は最新の医学知識をもとに、読者を啓蒙しようという意図のもとに書かれた作品である。それゆえ、このテーマと難病の特徴から、「これ以外の展開はありえない」わけだ。その難病とは…ううん、今日はまだ伏せておくことにしよう。