ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Leif Enger の "So Brave, Young, and Handsome"(2)

 これを読んでいるあいだに西部劇が観たくなり、先週の土曜日、たまたま近所のスーパーの500円均一セールで買ったDVDで『シェーン』を20年ぶりくらいに観た。画質は期待していなかったが意外にもかなりよかった。正規盤ではないはずだが(下の盤とも違う)、版権が切れた話をどこかで聞いたような気がする。

シェーン [DVD] FRT-094

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 で、本書を『シェーン』と比較するのはムチャクチャな話だが、それを百も承知の上で感想を述べると、『シェーン』のほうがずっと面白い。登場人物が善玉と悪玉にはっきり分かれ、テーマも勧善懲悪で定石通りなのだが、撮り方が抜群にうまいし、「シェーン、カムバック!」の名セリフに代表されるように、ヒーローと子供の関係がとてもいい。
 この本も主人公の作家と老人の関係はなかなか味がある。作家は何しろ新作が書けないが、画家としての名声を確立している妻の手前、自分の無能ぶりを正直に告白できない。一方、老人のほうは元列車強盗で、逮捕を恐れた結果、妻を見捨ててしまったことが悔やまれてならない。そんな現在の、あるいは過去の「わだかまり」、「胸のつかえ」を取り除こうとする二人の悪戦苦闘ぶりを「西部劇の風景の中で」ロード・ノヴェルとして描く。このアイデアは大いに買える。 
 が、少々不満なのは、お尋ね者の老人をつけねらう私立探偵に作家が詐欺師の汚名を着せられながらも、また、逃げようと思えばいくらでもその機会があるのに、探偵と行動を共にするくだり。たしかに、故郷に帰れば鬱屈した生活が待っているだけという設定は分かるし、追跡される側から一転、渋々ながら追跡する側にまわるという展開も面白い。だが、終始一貫、老人との珍道中に徹したほうが定石通りでもインパクトがもっと強かったのではないだろうか。映画で言えば、『スケアクロウ』『ペーパー・ムーン』『俺たちに明日はない』…よく出来たロード・ムービーのパターンである。
 あと、「たぶんアメリカ人には切なくて懐かしい、ハートウォーミングな作品だろう」とレビューには書いたが、これは裏を返せば、日本の読者にはどうなんだろうという意味でもある。インパクトが弱いぶん、上の映画が持っているほどの普遍性には欠けるような気がする。
 …恥ずかしながら、評判のいい "Peace Like a River" は未読なので、つい小説と映画を比較するというアホなことをしてしまった。Leif Enger よ、許されたし。