ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Olive Kitteridge" 雑感(3)

 世間は早くも連休モードのようだが、ぼくは土曜出勤だし、今日は「自宅残業」。この2日間で読んだのがたった4話だけとは情けない。早く宮仕えの身を返上したいところだ。
 第6話の "A Different Road" でいきなりアクション・シーンが始まったのには驚いた。Olive がたまたま立ち寄った病院で人質強盗事件が発生。今までの心理小説路線がここで一変するのかと思ったが、それは杞憂に過ぎず、ここでも陰影に富んだ心理描写が繰りひろげられている。夫婦間の決定的な亀裂、心の傷がテーマ。
 第7話 "Winter Concert" では Kitteridge 夫妻はそろって端役。教会で開かれたクリスマス・コンサートで、ある老夫婦が知人の女性と出会い、何気ない会話を通じて過去の傷が浮かびあがる。年齢的に一緒に過ごす時間が限られていることの重みがずしりと伝わってくる。
 第8話 "Tulips" で Olive は主役に復帰。一人息子は遠くカリフォルニアの地に引っ越し、離婚後も故郷へ帰ろうとしない。そこへもって、夫が脳卒中で倒れる。孤独な老人の哀感、寂寥感が心にしみる。少年時代の夫や息子の写真に Olive が語りかけるシーンは読んでいてつらかった。
 第9話 "Basket of Trips" も主人公は Olive で、前編の続きとも言える内容。教え子の夫が死亡し、葬儀のあとで Olive は教え子の家を訪れる。他人の悲しみを見れば、自分の闇に光が射すかもしれないと思った、という言葉が重い。この話には、ほとばしる激しい感情と、心の中に沈潜した深い悲しみが満ちている。
 以上、どの話も相変わらず日常茶飯の出来事ながら、ひとつひとつの言葉や行動、風景描写には人生の悲哀と苦悩が凝縮されている。この駄文を綴りながら、ぼくはグールド盤でブラームスの後期ピアノ小品集を聴いていたが、その曲想と本書の内容はぴったり一致しているかもしれない。