ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Olive Kitteridge" 雑感(5)

 来月発売予定のはずだった Marilynne Robinson の "Home" のペイパーバック版がなぜか本日届いた。が、ほかにも読みたい本があるので、実際に取りかかるのはやはり来月になりそうだ
 "Olive Kitteridge" のほうはやっと読了。本来ならまとめのレビューを書くところだが、今日も疲れがひどく、最後の2話を読むのが精一杯だった。雑感だけ述べておこう。
 第12話 "Criminal" の主人公は Rebecca という女性。彼女が中学生だったときの怖い先生が Olive という言及があるものの、Olive 自身の出番はまったくない。Rebecca が病院の待合室で雑誌を盗むエピソードに始まり、幼いころに家を飛び出した母や、牧師だった今は亡き父、大学時代の元カレなどの思い出話と、盗んだ雑誌の物語や、現在交際中の男のために通販でドレスシャツを買う話などが混じる。疲れのせいかボケのせいか、正直言ってぼくにはピンとこなかったが、しみじみとした哀感が漂っていることはたしかで、ぼくなんかよりずっと読みの鋭い読者ならけっこう胸を打たれそうな気がする。なお、第2話 "The Piano Player" の主人公だった女のピアノ弾きがちょっとだけ顔を出す。これと似たような例はほかの話にもあり、それぞれの短編を通じて、小さな町のお互いにつながりのある住民の人生を描くのが本書のテーマのひとつと言えるかもしれない。
 最後の話 "River" はとてもいい。長年連れ添った伴侶を亡くし、自分もまた死を意識せざるをえない老人同士の心のやりとり。一人はもちろん Olive Kitteridge だ。孤独と沈黙が支配する世界の中で出会った相手に覚える胸のときめきは、亡き夫への思いと重なって悲しみをもたらす。感謝と後悔、生への執着。微妙に揺れ動く心を抑制した筆致で描いたこの "River" は、本書を締めくくるにふさわしい絶品である。