ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Unaccustomed Earth" 雑感(2)

 Elizabeth Strout の "Olive Kitteridge" に寄り道したおかげで長らく中断していたジュンパ・ラヒリの新作に再び取りかかった。そんな「芸当」ができるのも短編集のメリットのひとつだが、全体の印象がぼやけてしまう恐れがある。さりとて最初から読み直すのはしんどいので、第1部第2話までの雑感(1)にざっと目を通してから着手。簡単なメモ書きに過ぎない駄文でも、こんなときには役立つものだ。
 今日は第2部第2話の途中まで読み進んだが、すでに翻訳のある本で、日本でもたぶん話題になっているはずだし、いっさい未読だが書評もたくさん書かれていることだろう。きっと同じような感想になるにちがいないが、今まで気づいた点をいくつかまとめておこう。
 まず、今読んでいる "Year's End" はちょっと違うが、どの短編も構成はかなり似通っている。序盤は意外に factual な叙述が続き、とくに技巧を凝らしているわけでもなく、淡々と進む。というか、簡にして要を得た説明のおかげで、人物関係や物語の背景がすっと頭に入ってくる。その意味では芸達者であり、「とくに技巧を凝らしているわけでもな」いのではなく、むしろ「技巧を感じさせない技巧」が光ると言うほうが正しい。
 factual な内容としては、登場するインド人は社会的地位の高いインテリが多く、アメリカ人と結婚している場合もある。移民としての苦労話やカルチャー・ショックの話題も出てくるが、主要なテーマではなく、文化の違いと言えば、親子や世代間の相違がそのまま伝統的なインド人とアメリカナイズしたインド人の差となっていることくらい。つまり、どれも「インド人ならではのエピソードもあるものの、むしろどこの国の話であってもおかしくない」。
 で、以上のような背景が示されたのち、必ず物語の動きだす瞬間がある。第1部第3話で言えば、旧友の結婚式に招かれた夫が宴の席から抜けだすところ。第4話なら、弟思いの姉が美術館で紳士と出会う場面だし、第5話は片思いの女のもとへ恋人が訪ねてくるシーン。このあたりから何かが起こりそうな予感がして目が離せなくなり、そのままひたすらページをめくるうちに最後、ぐっと盛り上がるシーンが待っている。
 第2部はどうやら連作短編のようなので、第2話は冒頭から動きがあるが、第1話は上と同じような展開だ。どちらも一人称で主人公が you に語りかけるスタイルなので、最初、二人はどんな関係なのだろうという興味が加わって楽しい。
 …肝腎のテーマにふれる余裕がなくなってしまった。今週は土日出勤なので、どこまで読めるか怪しいな。