ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Dangerous Laughter" 雑感(2)

 本書は周知のとおり、ニューヨーク・タイムズ紙が選んだ昨年の優秀作のひとつだが、フシギなことに、Michiko Kakutani も Janet Maslin も個人のベストには挙げていない。なぜだろう? ともあれ、NY紙選定の優秀作を読むのは、"Netherland"、"2666"、"Unaccustomed Earth" に続いて4冊目。こんなに同紙につきあうのは初めてだ。
 読みながら思ったのだが、宮仕えのぼくには、この程度の分量、このレヴェルの英語がちょうどいい。短編集ということで、通勤電車の中でも、一話ごとに読みおえた!という実感が味わえる。ただ、ボケ気味のぼくは、次の作品を読めば読むほど前の物語を忘れてしまう。そこで備忘録として、こんな駄文を綴る意味もあるわけだ。
 昨日の分までがイントロと第1部で、第2部は "Impossible Architectures" と題されている。第6話 "The Dome" は、個人の住宅をすっぽり覆うドームに始まり、やがてそれがブロック単位、地区単位と拡大し、最後にはアメリカ全土、いや地球全体にまで広がろうかという話。最初は現実的な描写が多く、論理もつながっているのだが、次第に現実から離れ、論理も飛躍する。
 第7話 "In the Reign of Harad IV" も同じような展開で、宮廷おかかえのミニチュア模型製作師が主人公。最初は普通の模型を作っていたのに、やがて小型化に取り憑かれ、しまいには肉眼はおろか、拡大鏡を通しても目に見えないものを作りだす。現実の異常な再現というテーマも読みとれる。
 第8話 "The Other Town" でも、現実がいつのまにか非現実化する。ある町の隣りにそっくり同じ町を作る話で、SFのパラレル・ワールドに近い内容だがSFではない。異常なまでに克明に現実を再現しようとする中に、現実とは何か、という問いが隠されているようだ。
 第9話 "The Tower" は、「もうひとつのバベルの塔」と題することができる。天まで届く塔の建設中と、塔が完成したあとの話だが、細部はいちおう現実的、論理的なのに、それが極端まで突っ走ることにより、非現実、非論理の世界が生まれている。
 この第2部を読むと、昨日はピンとこなかった表題と同じ "Dangerous Laughter" も何となく納得できる。つまり、日常が極端に走って非日常化する物語なのだ。