ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Belong to Me" 雑感(6)

 『大辞林』(第2版)でヒューマニズムの定義を調べると、「人間中心、人間尊重を基調とする思想態度。『人間』の捉え方により種々の形態がある」。さらに、『ランダムハウス英和』によれば、「人間的興味・価値・品位・尊厳を中心とする思考[行動]様式」とのこと。これ以上の確認は面倒くさいので省略するが、こういう定義が正しいとすれば、人間の愛情や善意、誠意、信頼関係などをベースにした小説はヒューマニスティックな作品と呼んでも差し支えないだろう。
 で、アメリカ文学には(べつにアメリカに限らないのだが、今読んでいる本書に合わせて話を絞ると)、明らかにそんな作品がたくさんある。勉強不足のため文学史をひもとく余裕はないが、今年になって読んだ本で言えば、Mary Ann Shaffer & Annie Barrows の "The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society" などがその一例。Karen Kingsbury の諸作(と言っても2冊しか読んだことがない)も代表格である。
 彼らは、いや彼女たちは、そして本書の作者 Marisa de los Santos も、「人間の愛情や善意、誠意、信頼関係などをベースに」小説を書いているのだが、愛情や善意という基本コンセプトそのものを疑ったり、それと矛盾する負の要素を取り上げたり、あるいは人間なら誰しも持っている美点と欠点、善と悪といった厄介なテーマを深く掘り下げたりすることはしない。その意味で、本書も文学的に深みがあるとは言えない。
 では面白くないか、感動を与えるものではないか、と言うと必ずしもそうではない。技巧的には、何度も言うように、「いろいろな食材をうまく混ぜ合わせておいしく料理し」た「ごった煮小説」であり、家庭小説、青春小説、恋愛小説など、さまざまな要素が「日替わりランチのように出てくる」おかげでかなり楽しい。
 しかし本質的には、上記のようなヒューマニズムのもたらす感動、すがすがしさ、爽やかさ、これが本書のいちばんの持ち味だと思う。どこかの国には、同じくヒューマニズムを標榜するにしても、読者の涙を誘いつつ説教を垂れようとする作家がいるが、Santos は政治的イデオロギーとはまったく関係なく、愛情や善意が心にストレートに響いてくるようなエピソードを連ねている。それゆえ、「文学的な深み」はなくても充分読みごたえのある作品に仕上がっているのだ。