最近はカタツムリ君だったが、本書は珍しくさっさと読みおえた。おかげで気分も梅雨明けに近い。印象が薄れないうちにレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 題名からひと夏の
恋物語を想像して読みはじめたが、実際は足かけ一年にわたる恋。ただし、クライマックスを迎えるのは翌年の夏なので、いちおう看板に偽りはない。毎年夏、ナンタケット島で催される慈善フェスティバルを舞台に、実施責任者の二人、たがいに配偶者と子供のいる男と女が不倫関係におちいる。そんな大筋もさることながら、本書は入り乱れる副筋が面白い。女はガラス細工の名人で、オークション用の作品に悪戦苦闘。フェスティバルに出演するロックスターは女の元恋人だし、女の不倫を知った親友との軋轢、何も知らぬ夫との衝突、フェスティバルを企画する女同士の対立、会計責任者の横領など、それぞれ緊張感あふれる場面が連続し、おおむね見当のつく大筋の展開と結末とは対照的にハラハラさせられる。メロドラマから発展して人間の真実を照射するという意味での文学的な深みはないが、上記のように副筋が錯綜しているおかげでクイクイ読める。終わってみれば理性と良識の勝利というのはご愛敬だが、上質の大衆小説として、猛暑をしばし忘れるのにはもってこいだ。英語も平明で読みやすい。