本書はとにかく、題名から判断して「展開も結末も見え見え」とは思ったのだが、何しろニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストに入っているということで(Trade Paperback 部門第11位)、人気の秘密は何だろうと前から少し気になっていた。どうせ陳腐なテーマだろうが、何か新味があるのかもしれない。
で、結論から先に言うと、「合わせ技一本!」だろうか。まず、「ひと夏の情事」と謳いながら、「実際は足かけ一年にわたる恋」で、慈善フェスティバルの企画から実行までの歩みと、二人の関係の紆余曲折をぴったり重ね合わせた構成の妙。サマー・フェスティバルの模様は、恋が一気に燃え上がる瞬間ではないが、やはりクライマックスの名にふさわしく大いに劇的で、「ブラボー!」と叫びたくなる。
次に、昨日のレビューにも書いたように、いろんな「副筋が錯綜しているおかげでクイクイ読める」。不倫をはじめ、夫婦の衝突、元恋人同士の葛藤、親友同士の衝突など、ここに登場する人物のあいだには常に緊張関係がある。各人の緊張が緊張を呼び、それが不倫という「陳腐なテーマ」に鮮やかな彩りを添えている。
それから、意外にと言うか当然と言うか、「終わってみれば理性と良識の勝利」。つまり、「健全路線」なのだ。女が神父に罪を告白するのも一例だが、全体の枠組みとしても本書はけっこう「健全な」倫理観に支えられている。これってじつは、売れる大衆小説の基本なのでは?
最後に、ここには映画的な場面が多い。そこで思い出したのが、同じく不倫を扱った Tom Perrotta の "Little Children" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080312。あちら同様、本書も映画化されたら、今やアカデミー賞女優となったケイト・ウィンスレットにぜひ主役を演じてもらいたいもんですね。