ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Ebershoff の "The 19th Wife"

 600ページの大作だったが、何とか読みおえた。読みだしたときはアマゾンUKのフィクション部門ベストセラー70位だったのに、今検索すると100位圏外。星もひところの4つから3つ半。ぼくの評価も3つ半だ。ともあれ、例によって雑感のまとめに過ぎないがレビューを書いておこう。

The 19th Wife

The 19th Wife

[☆☆☆★] 19世紀中葉、草創期のモルモン教では重婚が神の教えとされていた! という設定で、現代を舞台とするミステリもふくめ、さまざまな叙述スタイルが駆使された重厚な歴史小説。教祖の(異説もあるが)19番目の妻で、夫に反旗を翻し、重婚廃止のために奮闘努力した女性が書いた回顧録を中心に、その父親の自伝、法廷証言、新聞記事、手紙、現代の学生が発表した研究論文などを通じて、重婚が男の欲望の隠れ蓑に過ぎず、女性信者と子供たちにいかに悲劇をもたらすものであったかという実態が浮かびあがる。教祖が目をつけた女をものにするくだりや妻同士の嫉妬など、大筋としては三文小説なみのメロドラマだが、とにかくあの手この手を使って詳細に描かれているので、その力業に次第に圧倒される。19番目の妻が数々の障害を乗りこえ、ようやく重婚禁止法案の成立に漕ぎつけたところは感動的。一方、当初から並行して、現代でも重婚を是とするモルモン教の一派内で起きた殺人事件が扱われ、夫殺しの罪に問われた、こちらも19番目の妻である母親の無実を証明しようと、ゲイの青年が真相解明に取り組む。途中で出会った少年や「恋人」とのふれあいなど心温まるシーンもあるが、ミステリとしては平凡。歴史小説の中に巧妙に組みこまれている点は評価できる。英語としては難易とりまぜ、内容に応じていろいろなスタイルが楽しめる。