ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Mark Slouka の "The Visible World"(2)

 おとといの雑感にも書いたが、これは最初、「ちょっとモタモタした感じ」がして今ひとつ乗れなかった。あとで起こる事件の伏線が張られていることは分かるのだが、いささか話が飛びすぎているのではないか。これと同じような展開で、もっとうまい小説を読んだことが何度かありそうだな…。
 それから、わりと早い段階で、母親にその昔、父親以外に好きな男性がいたことが分かり、「それが後年、母親の心に重くのしかかる」のはいいとして、母親の行動は少し過剰反応なのでは、とも思っていた。それとも、それだけ深く傷つく何かがあったのか…。
 というわけで、第3部に入り、明らかにロマンス篇が始まったときも何やら釈然とせず、「どうも第二次大戦中の悲恋ものらしいのだが」と断定を避けていた。ただ、そこに切ない場面が続いていることだけは間違いない…。
 と、そんな疑問を一気に解消したのが幕切れ寸前のエピソード。なるほど、これなら母親がその後、あんな行動を取るようになったのも無理はない。そう納得しただけでなく、ぐっと胸をえぐられてしまった。
 ここには「愛を引き裂かれ、愛より死を選び、そして愛の重さに耐えて生きた人々」が登場する。三者三様だが、三人が三人とも、ぎりぎりの「愛の選択」を強いられている。とりわけ、「愛の重荷を背負う」(p.240) ことになった…の選択は余りにもつらい。ネタばらしは控えたいが、とにかく『朗読者』なみに愛の重さに胸を締めつけられる作品だった。