ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Then We Came to the End" 雑感(2)

 やっと田舎から帰ってきた。バスと飛行機の中で本書の続きをずっと読んでいたが、相変わらずとても快調。今のところ、ひとことで言えばサラリーマン小説か。サラリーマンの毎日なんて文学とはおよそ無縁のものと思っていたけれど、それが書きようによってこれほど面白い作品に仕上がるとはね。
 レイオフの嵐が吹き荒れている広告代理店が舞台ということで、社員たちは戦々恐々。クビを切られた同僚の椅子を勝手に使っていたのがバレる前に、その椅子を元に戻そうとするが、自分の椅子はさてどこへ、とあちこち探し回るくだりはドタバタ喜劇調。乳ガンの手術を受けるはずの女ボスが手術当日も出勤、あれ、手術の噂はデマだったのか、とにぎやかな井戸端会議。
 けっこうリアルだなと思ったのは、家族写真やネームプレートのような机上の小物を誰かが盗む話で、外資系銀行に勤めていたかみさんも何度か被害に遭ったというから、あちらでは日常茶飯なのかも。社内メールを仕事だけでなく、個人的に「活用」するエピソードも実話っぽい。かみさんによれば、外人は思わず噴きだしそうになるメールをよく送ってきたそうだ。
 とまあ、けっこう愉快な小説なのだが、昨日の雑感にも書いたように、「自分を見失わないように懸命にがんばっている姿も見え隠れする」。鬱病にかかって入院する社員、クビのあと死亡した同僚から遺贈されたトーテムポールをじっと眺める社員、誰もいないオフィスで物思いに耽る上司…。いやあ、身につまされますなあ。
 今読んでいるのは珍しく仕事の話で、「乳ガン患者を笑わせる広告」を作ろうと四苦八苦している社員たちの姿がコミカルに描かれている。さて、どうなるんでしょう。