本書の感想を簡単に言えば、ウィリアム・トレヴァーってやっぱりうまい作家だなあ。これ、ブッカー賞の選考委員もまっ先に感じたことではないだろうか。おとといの雑感に、結末がどうなるか、ぼくの「予想は当たるでしょうか」と書いたが、読みおわってみると半分当たり。外れた半分に関して、思わずうなってしまった。詳しくは、昨日のレビューの後半に書いたとおりである。
ブッカー賞の過去の最終候補作で「ひと夏の恋」を描いたものとしては、J.L.Carr の "A Month in the Country" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20071206 や、Brian Moore の "The Doctor's Wife" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080608 などが思い浮かぶが、このトレヴァーの作品はそれらと同格の出来。そういう意味ではショートリストに残ってもフシギではない。
今年の夏はたまたま、本書と同じようなテーマの Elin Hilderbrand 作、"A Summer Affair"http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20090717 も読んでみたが、この二冊を較べると、純文学と大衆小説の違いが一目瞭然で非常に面白い。ストーリー性という点ではヒルダーブランドのほうが圧倒的に上回るが、「心の葛藤劇」をじっくり読ませるトレヴァーのほうが文学性は高い。さすがブッカー賞候補作だけのことはある。
ただ、ちょっと線が細いかな、いい作品なんだけど。文学ミーハーでロマンス好きのぼくとしては大いに推薦したいところだが、この3年間のブッカー賞受賞作、最終候補作の中でピカ一の "The Inheritance of Loss" と較べるとやはり落ちる。
今アマゾンUKで検索すると、フィクション部門23位と急上昇。Hilary Mantel の "Wolf Hall"(31位、オッズ2/1)や Sarah Waters の "The Little Stranger"(51位、4/1)、 AS Byatt の "The Children's Book"(74位、10/1)などを抑えて、ロングリストの中ではいちばん売れ行きがいいようだ。これも不安材料の一つ。ブッカー賞の選考委員は人気作を敬遠しているのでは、と思えるフシがあるからだ。今年の候補作はまだ本書しか読んでいないので何とも言えないが、ショートリストに残るかどうかは微妙な気がする。