ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ed O'Loughlin の "Not Untrue and Not Unkind"(2)

 今年のブッカー賞候補作を読むのは、William Trevor の "Love and Summer" に続いて本書で2冊目だが、ううむ…これがショートリストに残る確率は "Love and Summer" 以上に低いのではないか。この2作に関しては、William Hill がつけたオッズはどうも当たっていそうな気がする。
 いい作品であることは間違いない。「感傷をとことん排したハードボイルドタッチのルポルタージュ風小説」と昨日のレビューでも要約したとおり、読んでいて、あ、ここはヘミングウェイばりだな、と思った箇所がいくつもあった。典型例は、主人公のオーウェンがもう二度と会えないかもしれない女性記者を空港まで見送るくだり。二人の間に男女関係はないが、それでも雨の中、オーウェンがホテルに引き返すシーンは『武器よさらば』の幕切れを彷彿させる。あれよりもっとドライだが、そこはかとない叙情性はたっぷりだ。
 その記者とはまたべつの女性記者とオーウェンは関係する。その先にどんな運命が待ち受けているかは、勘の鈍いぼくでもピンときた。が、そういう展開を頭におきながら読んでいると、「即物的とも言えるドライな客観描写の行間に、じつは無限の悲しみがこめられている」ことが分かり、それがぐっと胸に迫ってくる。
 ただし、「加速度的に事件が進行、一気に爆発する終盤の展開」を考慮にいれても、これは全体的にハッタリ不足。「ルポルタージュ風」に事実(らしきもの)をじっくり積み上げるのはいいのだが、前半からもっと飛ばしてくれないと、ぼくのような文学ミーハーはつい眠くなってしまう。
 それより何より、本書はテーマそのものが弱い。いや、これは本書にかぎらず、ひょっとしたら現代文学全体にかかわることかもしれないが、ここにあるものは結局、個人の感傷に過ぎないのではないか。もちろん、それが「いわば匂いたつように描かれている点がすばらしい」のだけれど…。何だか身もフタもない話になってきた。この問題については日を改めてまた考えてみよう。