ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The House on Tradd Street" 雑感(1)

 A. N. Wilson の "Winnie and Wolf" がえらくシンドイ小説だったので、口直しに Karen White の "The House on Tradd Street" に取りかかった。知らない作家の知らない作品だが、たぶん米アマゾンのリストマニアか何かで出くわし、古い屋敷が描かれた魅力的な表紙に惹かれて買った本のような気がする。文学ミーハー趣味もいいところですな。
 というわけで、読みはじめるまではどんな内容か見当もつかなかったが、表紙から期待したとおり、とても面白い! やっぱり、「本は見かけによる」のかも。洋書オタクにとって、未知の作家の未知の作品が「当たり」だったときほど楽しいことはない。
 ひと口に言えば、これはモダンなラブコメ風のゴースト・ストーリーだ。舞台は南北戦争ゆかりの地、サウスカロライナ州チャールストン。歴史的な街並みで有名な観光都市らしい。主人公は不動産会社の社員で中年独身美人のメラニー。鑑定に訪れた古屋敷の家主の老人に気に入られ、老人の死後、屋敷と財産を相続することになる。霊視能力のあるメラニーは邸内で何度も女性の亡霊を目撃、不思議な出来事が相次いで起こり…
 一方、メラニーにイケメン歴史小説家のジャックが接近。メラニーともども、その昔、屋敷に住んでいた夫人の駆け落ち事件の謎を追うが、短気なメラニーは押しの強いこの男がしゃくに障る一方、男の心に暗い影を読みとる。メラニー自身も、何やら母親のことで深く傷ついている様子…
 古い館に美女、幽霊とくれば古色蒼然たるゴシックロマンの世界だが、これはオカルト的な要素もあるものの、メラニーとジャックの「ぶつかり合い」をはじめ、メラニーがいろいろな相手とかわす会話がユーモラスでハートウォーミング、とても楽しい現代小説だ。パン屋の女主人など脇役の登場する場面でさえ心がなごむ。こういう細部にちょっとした工夫のある小説に「外れ」はまずない。
 やがて駆け落ち事件の真相、メラニーとジャックのそれぞれの過去が明らかになる展開のようだ。結末は何となく見えるけれど、そんなことはどうだっていい。たまにはこんなゴキゲンな小説を読まないと、人生やってけません。