ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The House on Tradd Street" 雑感(2)

 これは相変わらず、というよりますます楽しい本だ。08年刊行で、ひょっとしたらもう日本に紹介されているのかもしれないが、不勉強のぼくには掘り出し物。風邪がまだ抜けきらないせいか頭が重く、思うように先へ進まないのがとても残念だ。
 「モダンなラブコメ風のゴースト・ストーリー」と前回は要約したが、その後、幽霊話らしい不思議な事件、超常現象がエスカレート。おかげでどんどん面白くなるのはいいが、一方、こんなに風呂敷を広げて大丈夫かなあと心配だ。Diane Setterfield の "The Thirteenth Tale" のように途中までクイクイ読めても、あとで「じつは…」とタネ明かしをされるとガックリするし、さりとてこれは現代の話なので、ああコワイ、コワイだけで納得するわけにも行かない。
 その点、うまいなあと思うのは、主人公のメラニーが鋭い霊感の持ち主であるという設定。これによって、亡霊が見えたり不思議な声が聞こえたりといった事件はすんなり読める。がしかし、亡霊がメラニーに攻撃を仕掛けてくるなど、霊能力だけでは説明のつかない現象も頻発するようになったので、ううん、これ、どうやって辻褄を合わせるんだろう。
 ラブコメ部分も快調で、メラニーはジャックに心秘かに惹かれているものの、表向きは猛反発。ジャックはメラニーに霊能力があることを見抜いているが、メラニーはそれを認めたくない。そんな二人の「口撃」は突っこみ鋭く丁々発止、こういう会話こそ小説の醍醐味のひとつである。
 二人を取り巻く脇役陣もにぎやかで、メラニーに思いやりのある言葉をかけるところがハートウォーミング。メラニーとジャックの「ぶつかり合い」ともども、ちっともおどろおどろしくない怪奇小説、モダンなゴースト・ストーリーのゆえんとなっている。
 おまけに、メラニーに何やら魂胆があって近づいてきた男も登場、その男とジャックの鞘当ても愉快だし、メラニーが相続した古い屋敷にまつわる昔の大事件も、メラニー自身の過去の事件もまだ全貌は明らかにされていない。いろんな読みどころがあって、いやほんと、目が離せません!