ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Karen White の "The House on Tradd Street"(1)

 新型インフルではないと思うが先週は高熱が続き、仕事も読書もすべて中断、ずっと寝こんでいた。昨日の午後になってやっと平熱近くになり、ベッドの中で本書に改めて取りかかり、夜半に読了。それがたたったせいか、これを書いている今もまだ熱っぽい。明日は血液検査の結果を聞きに行かないといけない。まったく年は取りたくないもんだ。
 閑話休題。これは最高にゴキゲンな本だ! 特に何か賞を取った作品でもないようだが、もしまだ日本に紹介されていないか翻訳の予定がないようなら、どこかの出版社にぜひがんばってもらいたい(…とマイナーなブログで訴えてもナンセンスだが)。ともあれ、いつものようにレビューを書いておこう。

The House on Tradd Street

The House on Tradd Street

[☆☆☆☆] とてもモダンで洒落たゴースト・ストーリー。古い館に美女、幽霊、隠された財宝、陰謀、美女の危機を救う美男子…本書の主な要素をひろうと陳腐も陳腐、古色蒼然たる通俗的なゴシックロマンのようだが、工夫次第でこれほど痛快無類、最後はぐっと胸に迫るものさえ感じさせる作品に仕上がるとは! 作者の並々ならぬ力量に感服した。舞台は南北戦争ゆかりの地、サウスカロライナ州チャールストン。歴史的な街並みで有名なこの観光都市に、不動産会社の社員で中年独身美人のメラニーが住んでいる。メラニーは鑑定に訪れた古屋敷の家主の老人に気に入られ、老人の死後、屋敷と財産を相続、屋敷の修復に取りかかる。ところが、幼いころから霊能力のあるメラニーは邸内で何度も亡霊を目撃、やがて不思議な出来事が相次いで起こり…。主人公が霊視者で、また亡霊が認めた人間にだけ亡霊が見えるという設定により、普通なら眉唾くさい超常現象もすんなり読め、映画『エクソシスト』ばりの「対決」でさえ説得力がある。大昔、老人の母親は駆け落ちしたという話だが、愛する息子を見捨てるような母親ではなかったはず。その謎を解こうとハンサムな歴史小説家ジャックがメラニーに接近、屋敷の修復にも協力を申し出る。頑固で意地っ張り、プライドの高いメラニーと、陽気な自信家でいつもひと言多いジャックの掛け合いは丁々発止、往年のキャサリン・ヘップバーンケイリー・グラントを思わせ、じつに楽しい。この二人の「衝突」のおかげで、本来おどろおどろしいはずのゴースト・ストーリーがラブコメ調を帯びる。メラニーを取り巻く脇役陣がメラニーに示す思いやりもハートウォーミングで、よく出来た人情話となっている。メラニーとジャックにはそれぞれ心の傷があり、その過去が屋敷にまつわる謎とあわせて次第に明らかになる一方、何やら魂胆のありげな男がメラニーに接近、ジャックに反発するメラニーは男の魅力に惹かれ…というあたり、まさにメロドラマそのものだが、恋の成就には傷心や誤解、障害がつきもの、これはメロドラマの本道を行く上々の仕上がりだ。こんなゴースト・ストーリーがあったとは、21世紀の現代でもいまだ幽霊死せず! 難易度の高い語彙も散見されるが、英語は総じて標準的で読みやすい。