ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Hilary Mantel の "Wolf Hall"(2)

 雑感(1)にも書いたように、「著名な人物を主人公にすえた歴史小説の場合、マクロな視点とミクロな視点を巧妙に配しながら、その人物に関する最も本質的な問題をすぐれたフィクションの形で追求する、というのがぼくのゴヒイキ」。この点、本書はどこを取っても間違いなくウェルメイドな歴史小説である。
 まず、「主人公を取り巻く政治や社会情勢、さらには国際情勢などの見方、簡単に言えば歴史観」としてのマクロな視点だが、これに関しては何度も雑感で書いたとおりだ。要するに、とても見通しがいい。国王の理不尽というテーマこそ定石ながら、トマス・クロムウェルを主人公にすえることで「愉快な裏話、楽屋話」が生まれ、それを通じてさらに歴史の大きな流れさえ見えてくる。
 雑感ではほとんどふれなかったミクロな視点もしっかりしている。鍛冶屋の息子だったクロムウェルが「国王の絶大な信任を得るまでにのし上がるというサクセス・ストーリー」を中心に、その「トラブルシューター、金権政治家」ぶりは本書最大の読みどころの一つと言っていい。乱暴な父親や亡き妻子、失脚した庇護者トマス・ウールジなどへの思いから、私人クロムウェルの人物像もよく伝わってくる。
 最後に、彼「に関する最も本質的な問題」だが、これは昨日のレビューに書いた「したたかな現実主義者クロムウェルと『信念の人』トマス・モアの対比」という点に集約されている。が、今日は残念ながら、出張先からケータイでこれを打ち込んできたのでもう疲れてしまった。続きはまた後日。