ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Paul Auster の "Invisible"(1)

 John Irving に続いてアメリカ文学一方の雄、Paul Auster も新作を出していたことを知り急遽入手、何とか読みおえた。さっそくまず、いつものようにレビューを書いておこう。

Invisible

Invisible

[☆☆☆★★] うぶな青年が挫折や試練を経て厳しい現実を知り、否応なく大人へと成長する。このイニシエイションを描いた青春小説は数多いが、本書は、視点・人称の変化と「フィクション中フィクション」の手法を導入することで読みごたえのある作品に仕上がっている。主な舞台は1967年のニューヨークとパリ。詩人志望の大学生が謎の大学講師と出会い、突発的な犯罪に巻きこまれる第1部は不条理劇のおもむきもあるが、セックス、自己嫌悪、絶望とごく普通のキーワードで要約が可能。これが複雑な様相を帯びるのが第2部以降で、1人称の手紙、2人称の回想、3人称の客観描写と変化しながら、その語りの構造がストーリーと絶妙にマッチしている。しかも何より、激しい愛の嵐や苦悩、正義感など、青春の叫びが聞こえてくる点がすばらしい。さらにメタフィクションへと接近する第4部では、第1部からのドラマの真相が明かされる一方、それが一瞬「藪の中」にも思えるが、書中の言葉を借りれば、「自分の心の奥底と直接向き合うこと」が若者の特権であり、大人への成長へのきっかけでもあるのだとわかり、胸を打たれる。行間に余韻のある文体だが、英語そのものは平明で読みやすい。