ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Quickening Maze" 雑感

 先週末から今年のブッカー賞最終候補作のひとつ、Adam Foulds の "The Quickening Maze" に取り組んでいるのだが、どうもノリが悪い。今のところ、受賞発表直前のオッズがいちばん高かったのも当然かな、という気がする。
 舞台は19世紀のロンドン郊外にある精神病院で、主人公は、ぼくは知らなかったが John Clare という実在の詩人。ネットを検索すると、「強烈な自然愛と人間愛のために、社会から狂人扱いされ、さらに失恋経験が精神に異常をきたし、精神病院に入れられた」とのこと。これくらいの予備知識があったほうが、本書の理解には役立つと思う。
 というのも、ボケに加えてまたもや風邪気味のぼくには、いまだにどうも話が見えてこないからだ。仕方なく、見返しの解説や裏表紙の紹介記事を読んでみると、'intensely lyrical', 'brilliantly imagined', 'exquisitely written', 'drawn with a wonderfully strange poetic intensity' といったホメ言葉が並んでいるものの、今ひとつピンとこない。たしかに散文詩といえば散文詩的な箇所もあるけれど…。
 入院中のジョン・クレアに加え、ここに登場するのはほかの患者や、院長とその家族、看護士、さらには、無知なぼくでさえ知っている有名な詩人のテニスンなど。院長の娘がテニスンに恋をしたり、クレアが病院を抜け出して近くの森でジプシーの一行と交歓したり、といったエピソードが断片的に綴られていく。中にはそこそこ盛り上がるシーンもあるが、思わず引きこまれるというほどではない。それより何より、各エピソードがあまりにも断片的で、進度も遅い。なるほど「迷路」には違いないけれど、"The Slowing Maze" というほうが正しいんじゃないか、と皮肉りたくなってきた。でもまあ、これはきっとぼくの読解力不足のせいでしょう。後半の盛り上がりを期待したい。